オカシな関係2-5
私は絶対に結婚なんかしない。男なんかいらない。子供の頃からそう思ってた。
だから、こういうこととも無縁だと思っていた。
初めてだった。
好きでもない男に陵辱された。
痛くて辛くて。気持ち悪かった。
「そんな…」
「そうよ、そんなことよ。犬に噛まれたと思って忘れたらいい。どうせ、私には恋人もいないし、今後、誰かと付き合うとも思ってなかったし。必死でそう思い込もうとしたの。クビは免れた筈だった。けど、私は出社できなくなってた。朝になると頭痛と吐き気。毎日それ。結局私は会社を辞めざるを得なくなったわ。なんのためにあの屈辱に耐えたんだか…」
「美佳ちゃん…」
「ひとつお願い。圭ちゃんには言わないで。あの子はたぶん、会社でいじめにあったぐらいに思ってる」
「言わないよ。…それ、おばさんは知ってるの?」
「うん…。再就職したんだけど、いざ出勤となるとやっぱり吐いてしまってね。母さんは私の様子がへんだから妊娠でもしてるんじゃないかと疑っててたみたい。訊かれて全部喋ったわ。でも、なにもせずに家に居るのは辛かったの。良くないことばかり考えてしまって。あのときのことを思い出して吐いてたり、働けない自分を責めて過呼吸になったり。結局、母さんの店の裏で手伝ってるうちにフロントよ。母さんに護られてる。でも、ヘンな客は滅多に来ないわ。お客さんと話したり、飲んだりしてるうちに思い出すこともなくなって。もう忘れたと思ってたのに」
私の手が温かく包まれた。
涼ちゃんが手を握っている。
「話す気になったのはなんで?俺次第ってことだよね?自分から、理由を言わずにバイバイできなかったんだよね?大丈夫。俺ね、粘り強いのよ。……ひとつ質問。もしや、抱き締めたり、キスしたりって我慢してた?」
「ううん。それは不思議とへーきだったの」
「へーきか。じゃあじゃあこれは?」
涼ちゃんが転がって私の上になった。
真っ直ぐ見つめられて思わず吹き出した。
「…へーき」
「これはこれは?」
軽く口づけられる。
「へーき」
「てことは、通過儀礼的なとこに異様に負荷がかかってるだけかもよ」
「なにそれ?」
「案ずるより産むが易しっていうじゃない」
「あんた、それ飛躍しすぎ。いきなり産ませますか。 …ま、言わんとするとこはわかるけどね」
つまり、やっちまえばなんとかなるっていう事らしい。
ヤリタイ男の都合のよい論理?
いや、コイツにそういう腹黒さはない。…願望はあるだろうけど。
「だいたい、お姫さまの呪いは王子さまのキスで解けちゃうんだから。もう美佳ちゃんは俺の虜の筈だもん」
ホントに、コイツの頭は楽天的にできてる。
だから、私は掬われている。こういうところは好きなんだけど。