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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森ー黄昏@-1

「小娘。そんなもの食ったら死ぬぞ」

賢しらで、小馬鹿にしたような声が頭上から降ってきて、黄昏は思わず手にした茸を取り落とした。


声の主を探して視線を上げると、白い大きな梟が一羽、楡の老木にとまっている。


妖か…。


「昨日、汁に入れて食べたら美味しかったんだもん…」
黄昏が小さく抗議して、茸を尚も籠に入れようとすると、いよいよ呆れたような声が響いた。


「そりゃ似てるが別のものだ。お前が今、手にしているのは間違いなく毒がある。…死にたいなら食ってもいいがな」

はん。と鼻で笑われた気がして黄昏は腹が立ったが、意地を張るのも馬鹿馬鹿しくて、手にした茸を放った。


さくさくと落葉を踏み分けて、黄昏は更に森の奥へと進む。

さっきの茸で夕飯のおかずが一つ減ってしまった。

後方からばさばさと羽音が聞こえて、あの梟がついてきている気配がする。


「…ついて来ないで」

黄昏が贄だからだろうか。幼いころから人ではないものが近寄ってくる。


「そっちは崖がある。人間は本当に馬鹿だな。そんな場所も知らずに、森になど入るな」


居丈高に言われていよいよ黄昏は頭にきた。
今まで近付いてくる妖たちは甘い言葉ばかりかけてきたのに、この梟はどうだろう。

梟は森の賢者と言うが、この世に知らないものはないという顔をして、己以外の全ての者を見下した態度だ。

「…ついて来ないでって言ってるでしょ」

「勘違いするなよ、小娘。この辺りは俺の縄張りだ」

冷ややかな声が返ってきて、黄昏は腹立ち紛れに大股で奥へと進む。

と、一歩大きく足を踏み出すと、黄昏の眼前は突然大きく拓けた。

片足が空を切る。

気付けば、そこは梟の言った通り崖になっていて、下方が良く見えないほど、高い。

黄昏は、何かにしがみつこうとしたが、怒りに任せて前のめりに歩いていたため、重心が前方に掛かり、どうにもならない。
一瞬、浮遊感を感じる。


―落ちる。


そう思って黄昏は目を瞑ったが、おとずれるはずの衝撃はなく、いつの間にか大きな手に支えられていた。

「…分かったか。小娘」


黄昏の耳許を皮肉気な声音が擽る。
黄昏を後ろから抱くようにして、支えてくれているのは恐らく―。


黄昏は突然の出来事に暫く身動ぎもできなかったが、それでもやっぱり悔しかったので、「…小娘じゃない。あたしは黄昏だ」とだけ、梟の腕の中で仏頂面のまま言ってやったのだ。


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