昏い森ー黄昏@-3
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月読に何度も言われた言葉。
「小娘、忘れるなよ。妖たちはお前の匂いに惹かれて近寄ってくるが、お前を好いているわけではない。…お前が贄だから、近付くのだ」
「…月読もそうなの?」
黄昏が瞳を揺らせて聞くと、妖は小馬鹿にしたように笑う。
「俺は贄などに興味はない。黄昏、お前自身にも」
だったら何で傍にいるの、という言葉を黄昏は飲み込む。言ったら機嫌が悪くなるに決まっているのだ。
「だから、勘違いしてホイホイ俺以外の妖に付いていくなよ」
そんなこと、しない。と心の中で呟いて、ぷいと黄昏はそっぽを向く。
夜の闇を閉じ込めた、極細の絹糸のような髪の毛がさらりと揺れた。
「…分かったか、小娘」
そっぽを向いていた黄昏の顔をぐいと強制的に自分の方を向かせた月読は、更に顔を黄昏に近付けて微笑った。
それは稀にみる月読の邪気のない表情で、偽りなくみえるその微笑に黄昏は胸の奥がつんと痛んだ。
だけど、15歳を過ぎた黄昏を未だ小娘と言う月読に、黄昏はやっぱり小さく不満を漏らしたのだった。