昏い森ー黄昏@-2
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梟は、月読と名乗った。
人の姿のときは、真っ白でぼさぼさの髪の毛に、瞳は英知を秘めた、深い群青色。
唇は大抵、傲慢に歪んでいた。
あれ以来、黄昏が森に入ると月読は近寄ってくるようになった。
梟の言い分としては、無知な小娘が彼の縄張りを荒さぬよう監視しているとのことだったが―。
「月読はあたしを食べるの」
薪を拾う手を休めずに、黄昏がそっと尋ねた。
「食べない。…お前、本当に何も知らないのだな。贄は森で一番力のある覇者だけの妙味だ」
如何にも嫌そうに答える月読は珍しく人の姿で、声だけでなく、憎々し気な表情まで分かるので、黄昏は憮然とした。
「贄って美味しいの?」
「さあな。俺は贄だとかに興味はない」
月読は御座なりに答えると、近くにあった手頃な枝を黄昏に放った。
「…ほら、小娘。日が暮れる。さっさと帰れ」
「…まだ薪、足りないもん」
唇を尖らせて言うことを聞かない黄昏に、月読は舌打ちして黄昏の小さな手を掴むと強引に森の外へと促した。
「全く、人間は馬鹿だ。それともお前が特別なのか?」
苦々しい口調と険しい表情とは裏腹に、黄昏と繋いだ手は大きく、しっとりと温かかった。
「…小娘って言わないでよ」
月読の手の温もりが心地良くて、黄昏の抗議は思わず小さくなってしまった。