龍之介・伍-2
「結局買えたの鍋だけかぁ。龍くんケチすぎ」
「姉さんがいちいち買おうとするからだろ。品物だけじゃなく値札もちゃんと見ろって」
「また姉さんって言った。ちゃんと名前で呼びなさい」
「くだらない事言ってないで早くドア開けろよ」
上着を脱いで鍋や包丁の置き場所を決めたら、どっと疲れが押し寄せてきた。
それは姉さんも同じらしく、ベッドに体を投げ出していた。
「あー・・・何かもうめんどい。このまま寝たい」
「俺もだ、明日は早いし」
虫退治で初めてここに来た日、姉さんに傍にいてほしいと言われたのを思い出す。
結局その日は泊まらず、何もしないで夜遅く帰った。
それでもう寂しさは癒えたと思ったのに、また次の休みに電話が来たのだ。
会わないつもりだったのに、誘われるとどうしても断りきれなかった。
それを繰り返すうちに母さんが、頻繁に行くのも大変だし、一緒に住めばと提案してきた。
最初は断ったんだけど・・・
俺がもう働いてるので別にいいんじゃないか、と親父と母さんに言われるうちに、それも有りかなと思う様になってしまった。
(姉さんは今の生活をどう思ってるんだろ)
物思いにふけり天井を見つめていたが、ふとベッドに目をやると姿がそこに無かった。
「あっ!」
まさか、と思いテーブルを見たらすでに缶ビールを開けている姉さんが腰を下ろしていた。
俺に目配せをし、ひらひらと手招きしている。疲れてるんじゃなかったのか?
「一緒にどう?」
「飲めるか。まだ9ヶ月はあるんだからな」
突き出された缶ビールを払いのけて隣に座った。しかし、しつこく薦めてくる。
早くも酔いが回ったか・・・いや、こういうところは元からだったっけ?
「龍くんは私が嫌いなんだ」
「何言ってんだ。酔っ払うには早すぎるぞ」
「だってさー、今日は私が買いたい物全部買わせてくれなかったじゃん、嫌いだからだ」
「さっき言っただろ、予算が無いって」
「あーはいはい、そうやって自分はお仕事してるからえらいと思ってるんだ。どうせお姉ちゃんは学生ですよ」
「そんな事言ってない。必要な物をちゃんと考えてから買えばいいんだよ」
話しながらかなりのペースで缶の中身を流し込んで、唇から零している。
今日は食事もしてないから酔いが回るのは早いだろうな。空腹に酒は効くらしいし。
(何で絡まれなきゃならないんだ、俺は姉さんの為を思って言ったんだぞ)
喧嘩になると思い、喉まで出かけた言葉を飲み込む。
早く酒を取り上げたいが、力ずくでやったら姉さんの神経を逆撫でしそうだ。
「龍くん変わった、昔はお姉ちゃんにべったりの甘えん坊だったのに」
「いつの話だよ・・・」
「お姉ちゃんの事なんかもう好きじゃないんだぁ〜、絶対そうだ〜」
今度は急に泣きそうな声になった。
酒の席では周りの人にいっぱい負担かけてるんだろうな・・・