枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-9
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時計が午前一時を指す頃、武彦は上半身裸、トランクス姿という、情けない恰好でいた。
良子が自分だけ脱ぐのは不公平と言い出し、同じ条件で彼にも脱ぐように言ったのが原因だ。
低アルコールとはいえ、量をこなすと腹に来る。途中何度か交代でトイレに行ったわけだが、良子はというと陽気な調子でまだ呷っている。
「ほらほら、お姉さん、飲んじゃうよ〜。そしたら武彦君、裸だよ〜」
自身もショーツとシャツ姿なのだが、先ほどからそわそわしはじめている武彦とは余裕が違う。
彼女が悠然と最後の一杯を飲み干そうとしたとき、武彦はたまりかねて頭を床にこすりつける。
「すみませんでした。降参します。どうか、これ以上は許して下さい!」
「あれあれ〜? そんなの通ると思うの? 私のこと裸にするんじゃないの〜?」
「いえいえ、滅相もございません。そのようなことはただのすこしも考えたことはなく……」
平謝りに徹する武彦に対し、良子はベッドに腰かけると、その頭を足でぐしゃぐしゃと踏みつける。
「うふふ、情けないの。私の裸みようとして酒のみました〜ってこと、さつきちゃんに言おうかな〜」
「そ、それだけはご勘弁を!」
驚き顔を上げる彼の顔面に、良子の足の裏が来るが、その先に見えるのは……。
「どうなの? 言ってもいい? さつきちゃんに……」
若草色のショーツは滲んでおり、黒ずんでいる。それだけではなく、クロッチからはみ出た陰毛がちらほらと……。
「ごくり……」
またも息を呑む武彦。その視線に気付いた良子はばっと股間を隠す。
「やだ、このスケベ! どこ見て話してるのよ! もう怒った! 絶対にさつきちゃんに今日のこと話す。そんであること無いこと全部付け足すんだから!」
「そ、そんな! 酷いですよ! 俺だって男ですよ? 先輩みたいな綺麗な人がそんな恰好で居たら、そりゃこうもなりますって……」
「そう、綺麗な人ね〜」
再び床に顔をこすり付ける武彦に、良子はやや機嫌を直したのか、足を組みだす。
「ならさ、そこの戸棚、そこにあるウイスキー、全部飲んだら許してあげる」
「え!?」
振り返り、戸棚というかタンスを探る武彦。そこにはペットボトルよりやや小さい小瓶が見えた。緑色のビンにはLah……なんとかと書かれており、空けると独特の臭いで鼻が曲がりそうになる。
「それさ、あんまり好きじゃないんだよね。捨てるのももったいないし、全部飲んでよ。そうしたら許してあげる」
ビンは開封済みで半分以上が減っている。十分に酔っている武彦だが、それほど無茶な話とも思えず、また、現状やらかしてしまった失態を取り返すにはこれしかなく、彼は頷き、コップに注ぐ。
「本当にこれを全部飲んだら、許してくれるんですよね?」
「んふふ、どうかな〜」
「そんな」
「まぁ、とりあえずそれを全部飲まないことには許さないけどね……」
また新たに条件が出されるのは必至だろう。けれど、圧倒的不利な状況、彼はウイスキーに挑戦するしかなかった……。
「それでは、いただきます!」
一息に呷ろうとするも強い刺激臭に手が止まる。ちびりと舌先を触れさせると、これまた舌を痺れさせる味わい、そして臭い。せめて水で割れたらと思うも、良子のことだから許さないだろう。それに、これ以上水っぱらになるのも辛いものがあり、彼は仕方なしにそれを飲む。
一口、また一口。
武彦はそれほど酒に弱いとは思っていない。ただ、普段飲むものといえばカクテルやビールなどの比較的軽いものばかり。ウイスキー、それもストレートなど、縁遠いものだ。
喉が熱くなり、咽るような感覚が訪れる。ただ、普段飲むよりも大きな高揚感があり、自然とピッチが早くなる。