枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-77
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合宿を終え、しばらく経った頃、さつきはいつもと変わらぬ毎日を過ごしていた。
武彦とはもう連絡が来ない。たまに講義の移動の際に遠目に見かけることはあるが、彼のほうから隠れてくれる。サークルにも来なくなったようで、たまに紀一が武彦のことを聞いてくる程度の関係だった。
あの一件で武彦の素顔がわかった。
小心者で臆病な男。理解が遅く直情的。騙されやすく、勘違いしやすく、隠し事をする男。そして、暴力を振るう男。
――最低な奴。
さつきは彼をそう片付けた。
ある日のことだった。講義を終えて街を歩いていると、携帯が振動する。
面倒くさくて着信拒否設定をしていなかったのが悪かった。
武彦からのものだった。
件名:この前のこと
謝りたい。許してくれとは言わないけど、でもこのままでいるのは辛い。
さつき、少し話できないかな
――バカじゃないの?
さつきは返すのも億劫だが、このままこじらせるとストーカーになりかねないと、メールを書く。
件名;Re この前のこと
もういいよ。おわったことだし
短いそれは咎めるとも、許すともない。
下手な文言を付け加えると、勘違いしかねない。武彦はそれほどのバカだと、さつきは理解していた。
送信してから数分、十数分、返信が来ないことに安堵しながら、さつきの足は家ではない方向へ向かう。荷物には制服を持って……。
通りを行く最中、枯れ落ちた紅葉が足元でぐしゃりと音を立てる。視線を空に向けると、朱にそまる紅葉が、太陽の光を遮りながら輝いていた。
それはまるで……。
朱に染まる紅葉 完
お題は見てのお帰りに・・・。
より、十一月のお題を借りて……。