枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-55
「あ、あのさ、過去問題もらいに行ったら船岡先輩が居て、それで、なんか武彦とは付き合ってるのかとか、なんか変なこと無かったかとか、そういうこと聞いてくるのよ。先輩だし、あんまりつっけんどんにするのもあれだから、適当に答えてたんだけど、でもなんかだんだんしつこくなってきて、講義だからって出たけど着いて来て……」
「で、俺が来たらひっこんだと。なんか嫌だな、あの人……」
武彦も克也を敵と認識してくれたのか、それとも後ろめたさを隠すためなのか、さつきに同意してくれる。
「うん。何かあったら俺に言えよ。先輩だからって遠慮することなんか無いって!」
武彦はドンと胸を叩くと、彼女を見る。しかし、その胸板は夏雄のそれと比べると薄く便りが無い。
「うん、ありがと。頼りにしてるね……」
貧弱なそれではきっと守ってもらえないだろう。考えなしの行き当たりばったりで行動する彼に期待できることなど何も無い。
「あ、じゃあいかなきゃ……」
予鈴を言い訳に彼から離れる。
「それじゃあ、あとでメールするね……」
さつきは彼に軽く手を振ると、そのまま教室に向かって走っていった。
武彦のような浮気者に時間を取られるなど、喪失以外のほかにないのだから……。
**――**
大学近くのコンビニで、さつきはカラフルな箱を手にしげしげと選んでいた。
「決まった?」
そこへ夏雄がやってきて声をかける。彼はカゴにいくつかお菓子をいれていた。
「ええ、これにします」
スティック状の絵が描かれたそれを手にとるさつき。薄さ〇.〇二ミリとあるそれは、避妊の強い味方だ。
「こっちのいぼいぼついてるほうじゃなくていいの?」
さつきはそっぽを向きカゴに入れる。さすがにレジに並ぶときは先に外に出たが……。
あの日以来、さつきは一人で夏雄に会うことをさけていた。だが、痺れをきらした夏雄からメールを受けた。
試験の合間、急遽部室で逢瀬する。当然さつきは拒んだが、決定権は彼女にはない。せめてもの抵抗としてコンドームをつけることを頼み、近くのコンビニで購入することとなった。
時計を見ると試験が始まってもう三十分経つ。あと一時間すれば部員がやってくるかもしれない。もう少し粘ることが出来れば、うやむやにできるかもしれない。
「やっぱりするんですか」
「しょうがねえだろ、時間ないんだし」
遅延を試みるも、会話の種も尽きている……が、
「さつき!」
曲がり角を折れたとき、立ち上がる武彦の姿が見えた。
「あ……、武彦。どうしてここに? 試験が終るにはまだ早いんじゃないの?」
事前に確認したときは、今の時間はまだ試験会場に居るべきとき。だが、こうして武彦がここにいるのは変えようのない真実である。
「ん? まぁ、そうなんだけど、なんか過去問に抜けがあってさ……」
「え、まさか……」
はっとするさつきはやってきたもう一人を見る。
「あら、武彦。どうして……」
「夏雄先輩、今日が例のテストだったみたいですよ……」
「え? あぁ、しまったなぁ……」
渋い顔をする夏雄は鍵を片手に部室を開け、二人を促す。
「えと、どういうこと?」
「いやさ、過去問に抜けがあってさ、さつきちゃんか紀一からメール無かった? 急いでメールしたんだけど、間に合わなかったかな。必修科目のやつが奥で誇り被ってて、渡そうと思ってたんだけど渡しそびれて……。すまん!」
深々と頭を下げる夏雄に、逆に申し訳なくなる武彦。もとはといえば彼がしっかり勉強をしていないのが原因であり、過去問を頼る姿勢にこそ問題がある。
「そんな、先輩のせいじゃないですよ」
「え〜、でも武彦、それじゃ試験は大丈夫? 武彦の方の先生、前期試験の内容によっては追試なしで落すって噂だよ?」
「まじで? やばいなぁ……」
「あんだよ、あいつがかよ……。しょうがない。俺が掛け合ってやるよ!」
夏雄は誇らしげに胸を叩いて武彦に向き直る。