枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-46
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夏雄を追い出したあと、さつきは暗い足取りで大学へ向かった。
武彦のこと、写メのこと、それが原因で脅され、アルコールのせいもあり、結果的にそうなっただけのこと。全ては不幸な偶然なのだと自らに偽る。
悪い夢。それが醒めたのなら、日常を演じなければならない。
だからこそ、この重い気持ちを引きずりながら大学にこれた。
幸い武彦と会う講義も無い。一日置けばなんとか立ち直れるはずと、さつきは沈んだ気持ちをむりに持ち上げようと、顔を上げる。
すると、その先にはなんと武彦と紀一の姿があった。
二人もこちらに気付いているようで、その制空圏はどんどん距離を狭め、そして……。
「あ、おはよう」
「うん、おはよう……」
彼の顔を見られない。
後悔。反省。裏切り。
「俺、急いでるから、後で電話するね……」
そう言って居づらそうにする武彦に、さつきはほっとしていた。
「うん、待ってる」
さつきは彼とすれ違ったと同時に、教室へと走っていった。
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講義が終った頃、夏雄からメールが届いた。
短く「話がある」そう書いてあっただけだ。
おそらくは昨日のことだろう。写メは削除したが、もしかしたら他にもあるのかもしれない。
逃げ出したい。けれど逆らえない。
――武彦……。助けて!
さつきはそう思いながらも武彦に相談することはできず、よろよろと部室へと向かった。
「お、さつきちゃん、遅かったね」
「え? 紀一君……」
部屋を見ると紀一がいた。他に夏雄、良子も。
良子の様子を見ると彼女はややしょげており、おそらくは昨日のアルコールがのこっているのだろう。
――この人さえ酔わなければ……。
飲み会ではめを外しすぎる良子。彼女が調子を崩さなければ、昨日だって武彦に送ってもらい、夏雄と……。
「えと、先輩、話って……」
紀一と良子がいる場所できりだすべきか迷ったが、あえて口にする。それは考えがあってというよりは、自暴自棄に似ている。
「うん。過去問を配るから、きてもらおうと思ってな。メールしたんだ」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「はぁ……」
途端、肩から力が抜ける。もちろん、警戒する気持ちがなくなったわけではない。だが、紀一がせっせと過去問題を仕分けているところをみると、それも嘘ではないとわかる。
さつきもそれにならい、自分が受けている講義の過去問を探し始めた……。