枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-32
「やっぱり……」
確信したわけではない。意地悪くカマを掛けたつもりだった。
「なんでそういうふうに言うの? 信じられない……。酷いよ武彦……」
強気な彼女ならきっと声高に反論してくると思っていたが、さつきはうつむくと、目を瞑って黙り込む。それは涙を堪えているようにしか見えない。
武彦の胸にようやく後悔が訪れるも、盆をひっくり返したのは自分だと、慰める言葉が出ない。
「武彦だって……、竹川先輩と……」
「ぐっ……俺はだから、それこそ誤解だ。ただ先輩を送って、それで、酒を飲み始めたから、だから、何もないって……」
「でも、泊まったんでしょ?」
「それは、そうだけど……」
認めたくないことだが、既に一度ばらされていること。そして、ゴミ箱に捨てられた方結びの使用済みゴム二つ。
消せない記憶は武彦の中にあり、後ろめたさが彼を熱くさせる。
「それなのに、あたしが船岡先輩と一緒にいたこと、責めるんだ……」
「だって、なんで……」
「先輩はただ、バスケとか参加してなかったから、誘いに行っただけだし、昨日だってバーベキューの準備手伝ってくれただけだよ? というか、変なことなんか出来るわけないじゃない。常識で考えてよ」
「そっちこそ、常識で考えろよ……」
言いつつ、失態を犯したと感じる。常識的に考えれば、どちらがよりおかしなことをしているのかなど、火を見るより明らか。年頃の男女が一晩ともにした。アルコールが惑わせるものもあるだろう、間違いも起こりえる。
「なら、鍵はなんだよ」
「鍵って? あれは知らないよ。古いドアだし、勝手にかかったんだよ」
「けど、二人でいたじゃないか!」
武彦にアドバンテージなど無いけれど、追求されることから逃げるには、反論させない以外に思いつかない。
「だって……酷いよ……武彦……」
幸いなのか、彼女は弱気であり、見つめる瞳は赤く充血している。
「お互い様だろ」
罪悪感をこじらせた武彦は、いっそのこと荒れるだけ荒れてやろうと、語気を荒げる。
「だって、だって……」
彼女は駄々っ子のようにそう繰り返すが、武彦はそれを聞こうとはしない。
全ては自分の勘違い。彼女の涙を見れば、それ以前に常識で考えれば、ありえない話でしかないのだから。
だが、引けない気持ちは彼にもある。
さつきを失いたくない。
初めて出来た彼女。これまで過ごした時間。未だ触れたことのない彼女の肌。昨日見た、白い肌。だから……、いや、むしろ……、
「さつき……!」
「え? 何、きゃ、やめて!」
武彦はさつきに覆いかぶさり、強引にキスをする。シートベルトをしたままの彼女は逃げることも出来ず、唇を必至でそむける。
「いいだろ、さつき! なぁ!」
もう二人の関係は終わり。そう思い至った武彦の行動は、本能に目指したもの……。
「俺達、恋人同士だろ? そろそろいいじゃないか……。お前だってそのつもりでここに誘ったんだろ?」
デニムのボタンを下ろし、チャックを引きおろす。温かい彼女の下腹部をさすり、そのままショーツに触れる。
「いや、そんなつもりじゃ……、お願い、武彦、正気に戻って……」
必至に手を伸ばして抵抗するさつきだが、狭い車内でのこと、引き離すことも難しい。
武彦は彼女の胸元に顔を埋め、シートに押し倒すようにする。腰を浮かしてズボンを脱ぐ。自分の行為に興奮しているせいか、既に陰茎は勃起しており、トランクスの先っぽが濡れていた。
「だめだってば、バカ……武彦ってば……」
彼が本気であることを察したさつきは、胸にうずくまろうとする頭を押し退けようとしたり、髪をひっぱたりと抵抗をする。しかし、その抵抗むなしく、ショーツは脱がされてしまう。