枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-31
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「次、ここに行ってみたいな……」
見知らぬ土地、緑に囲まれた道路で、武彦は車を走らせていた。
助手席にはさつきがいる。
昨日の提案どおり、オリエンテーリングは智之と紀一に任せ、二人は観光めぐりをしていた。
本来なら嬉しいはずの二人きりの時間。なのに、武彦は不機嫌だった。
今日は特に克也の邪魔も無い。だが、昨日の醜態といい、けじめのつかない互いのよそよそしさが、苛立ちを増大させていた。
「ねぇ、どうしたの? さっきから暗いよ? 武彦」
「ああ、なんか、そうなんだ……」
当然それはさつきも知るところにあり、困った様子で彼を見る。
「武彦は……とこあるの?」
「え? あ、いや、俺はとくに行きたいところは……」
「違うよ」
「何が?」
「行きたいとこじゃなくて聞きたいところ……」
「それは……どういう意味?」
さつきが急に左を指差す。見るとスーパーのような建物があり、「ようこそ鬼瓦高原へ」とある。観光客を見込んでの複合施設だろう。広い駐車場と、食堂の看板が見えた。
「少し話そうか?」
「ああ……」
聞きたいことは山ほどある。
だが、聞かれたくないことは……?
駐車場の端っこに車を止め、武彦は外へ出ようとする。しかし、さつきはシートベルトすら外していない。
「どうしたんだ? でないの?」
「いい。ここで話そう。その方がいいよ」
「なんで?」
「誰かに聞かれたくないし、もしかしたら辛くなるかもしれないし……」
か細くなる彼女の声も、武彦の耳にしっかり残る。
その意味がわからないほど、彼は潔白ではないのだから。
「ああ、わかったよ」
「うん」
しかし、思惑に沿わず、無言。
クーラーの効いた車内はそれなりに快適。けれど、心情的には圧迫感がある。
「あのね、最近の武彦、すごく不機嫌だよね? あたしのせい?」
それほど広いわけでもない密室での一分。先に耐えられなくなったのはさつきだった。
「なんでさつきのせいなんだよ」
「だって、一緒にいたりできないし……」
「バイトだろ? 俺だってそうだし、しょうがないよ」
「それになんか、あたしが船岡先輩と一緒にいると、不機嫌だし……」
「ああ、そうだろうな。あいつ、さつきに気があるみたいだし」
正確には武彦とさつきなのだが、省く。
「そんなことないよ。先輩、別にあたしなんか……」
そう言って口ごもる。思い当たることがあるのか、手のひらを見て指折り数える。
「昨日、レクリエーションルームでなんかあったんだろ?」
「なにもないよ!」
「じゃあなんで、お前泣いてたんだよ」
「泣いてない」
「泣きそうになってた」
「違うよ。そんなことない……」
「けど……」
「とにかく、武彦が思うようなことなんて無い」
「じゃあなんで……、なんで服が……変になってたんだ」
ゆっくりと言葉を選ぶ。けれど、さつきはそのニュアンスがわからないのか、眉を顰めるのみ。
「変って、何が?」
「だから、ずれてたろ……、服とか、下着とか……」
「そんなの……、違うよ。そんなことない。武彦勘違いしてるってば。誤解だよ……」
誤解を連呼する彼女は明らかに動揺しており、焦るも言葉が続かない。