枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-24
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インドアなスポーツで汗を流した部員達は、食堂でカレーライスを頬張っていた。
本来なら外で飯盒炊飯の予定だった。とはいえ、変わりやすい山の天気を読むこともできないと、皆特に何も言わない。
中には薮蚊にさされるオリエンテーリングより、皆でレクリエーションをしていたほうが良いと言い出す者もちらほらと……。
「んでも、よく、こんだけ、たくさん、つく、れたね……」
もごもごと口をさせながら、紀一は朝食兼昼食をしていた。
「食べるかしゃべるかどちっかにしろよ」
「はいはいっと……」
熱々の麦茶をぐびっと飲みながら、ようやくスプーンを置く紀一。
「こんなにたくさん、よく一人で出来たね」
彼が驚くのも理由がある。合宿参加メンバー十四人分を一人で作るのは並の作業ではない。皆で飯盒炊飯を行う予定であり、一人で行うべき仕事量ではない。
ならば手を抜いたのかというと、それも違う。大きめに切られたジャガイモ、にんじんはよく火が通っており、ルーのコクはやや浅いものの、万人受けする味ではあった。
「うん、調理苦手な人も多いみたいだし、材料の半分は最初から皮を剥いたり、切ったりしておいたから」
さつきは大きめの具をスプーンで割ってから口に運ぶが、唇の端にカレーがついてしまう。
「そうなんだ。それは用意周到で」
紀一は感心したように頷くと、お代わりをもらいに行く。
「なんだ、準備してたんだ。俺も手伝ったのに……」
「んーん、これぐらい一人でやれるよ。食材とかはあたしの仕事だし、武彦は車の運転があるでしょ? 起こしちゃ悪いしね」
そう言ってにっこり笑う彼女は、紙ナプキンで唇を拭くと、さっさと皿を下げる。
次は十四人分の洗いが待っているのだと気付き、武彦も腹八分目といったところで炊事場に移動した。
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いい加減降り止まない雨だが、徐々に弱まりを見せる。とはいえ、ぬかるんだ道を行くつもりもなく、施設の管理人の好意に甘えて午後も体育館を使わせてもらう。
バスケットボールをするのに飽きた部員達のために、智之は倉庫から平均台やマット、ネットを持ち出して簡易の障害物コースを作る。三組にチーム分けをしてタイムなどを競わせ、その間に次の気晴らしを考えていた。
武彦はさつきの傍に居た。先ほどのことが気になるのが理由だ。
今、克也は体育館に居ない。
人数の都合で一人あぶれるとなったとき、彼は眠いからと参加を拒んだ。ただ、彼はバスケットボールのときも参加をしなかった。
雰囲気から団体行動を好むようにも見えないが、それならば何故合宿に参加したのかわからない。
参加は任意であって強制ではない。就職活動が始める頃でもあるので、三年はあまり参加していないのが現状だ。
夏雄や良子のように軽い乗りで参加するものも居るが、彼らの場合は積極的にレクリエーションに参加している。
彼が今この場所に居ないというのに、武彦は不安だった。恐れてはいない。憤っているのだ。
さつきを困らせるあの男には、警戒が必要だと、改めて思い直した。
「バトンターッチ!」
物思いに耽っていた武彦を現実に戻したのは良子の元気な声。彼女は続く走者の紀一にバトンを渡すと、上気した息を整えながら、肩口から胸にかけてさすっている。
「良子先輩、どうかしたんですか?」
一年の富井由紀子が不思議そうに聞いていると、良子は腕を大きく回しながら、うんうんと頷く。
「うん、ちょっとブラが外れてて、直してた」
「やだ、先輩ったら、男子もいるんですから、あんまり変なこと言わないでくださいね」
由紀子は先輩の下に近いネタを受け流し、みょうにそわそわする同級生の背中をばんばんと叩き、「まったく、これだから童貞は」と笑う。
――まったく、良子先輩は……。ん?
その一連のやり取りを見ていた武彦はふと違和感を覚える。