枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-23
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調理場へ戻った二人は、途中夏雄に会うも、そのただならぬ雰囲気からか、「もう直ぐ昼飯だろ? 智之呼んでくる」と体育館へといってしまう。
武彦としても今はさつきとゆっくり話がしたいため、都合がよかった。
「何があったんだ?」
カレーを温めなおす彼女に、武彦は疑問を口にする。
「何もないよ」
さつきは微動だにせず、ぽつりと答える。
「けど、なんでさつき、泣きそうだったじゃないか……」
「泣いてないもん」
「いや、泣いてないけど、泣きそうだったじゃないか」
普段の彼女なら、泣き顔なんて決して見せないだろう。もし悔しいこと、辛いことがあったとしても、誰かの同席など許すはずがない。
「ちょっと、話してたの。ただそれだけだってば」
「その話を聞かせてくれないのか?」
人数分の皿を持ち出し、ごはんをよそる。
「別に、ただ、その……だって……」
途切れ途切れの声はやがて曇り、さつきは腕で顔を擦る。
「ごめん、本当になんでもないんだってば……」
「さつき……すまん」
涙声になったところで武彦は自分の愚かさに気付き、慌てて彼女を後ろから抱きとめる。
震える彼女は、しゃくりあげるたびに肩が小さく揺れる。
「んーん、いいの。だって、疑われるようなことになったんだし、それは武彦のせいじゃないよ。けど、今は訳わかんないから、後で話す。だから、ごめんね」
「ああ、それでいいよ……」
いつになく弱気な彼女を強く抱きしめる武彦。その腕に彼女の涙がポツリとおちた。
「おーい、カレーの準備は〜」
そこへ現れたのは紀一の能天気な声。だが、彼もそのただならぬ雰囲気に圧されてか、二の句が継げない。
「あ、あぁ〜、これはお邪魔だったか……」
「お、いや、ちがうんだ。ただ、ちょっと、さ、別にな、さつき」
「う、うん。ちょっと手伝ってもらっただけだから……。そうそう、もうカレーも温まったし、湯川君も盛り付け手伝って」
ぱっと離れる二人だが、紀一はにやにやしながらごはんをよそりはじめる。
「まあいいけどさ、あんまりみせつけてくれんなよ?」
「悪かったな」
武彦はカレーなべを運ぶと、並べられた皿にルーをかけると、さつきも顔を真っ赤にさせながら、福神漬けをそえ始めた。