枯れ落ちる葉、朱に染まる紅葉-13
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誤解。
そうも言える。
彼女は状況だけで判断しているのだから。
飲み会の夜、武彦が良子と一夜を共にしたことを……。
正直に話すべきかといえば、それは出来ない。
彼自身、記憶もなく、既成事実のみがあっただけで、説明が上手くできそうにない。
ただ、シャツ姿で上下する良子のなまめかしい姿を見て、喘ぐ声を聞いたのは覚えている。
どちらから誘ったのか?
せめてそれだけでも知ることが出来たら。
はたしてそうだろうか?
たとえ良子から誘ったとして、脱衣飲み比べは武彦もやる気を見せていたし、シャツの隙間を覗き見しようとしたのも事実だ。
黒というには十分な余罪。
武彦は、アパートに帰ると、冷たいシャワーを思い切り浴びていた。
電源を落したままの携帯はなることもない。
充電をすべきだが、怖い。
さつきからのメール、着信が……来ることが? それとも来ないことが?
武彦はしばらく修行僧がごとく、冷水に打たれていた……。
**――**
気持ちが落ち込んだところで、次の日は来る。思考のどつぼに嵌った彼は一睡も出来ずに麻を迎えた。
今日の講義は午後に一コマあるのみ。サボったところで問題ないが、部屋に篭っているとこのまま出るのが怖くなるかもしれないと、立ち上がる。
携帯は充電しつつ、落したままにして、彼は部屋を出た。
初夏のキャンパスはところどころで蝉が泣きわめき、日差しは容赦なくアスファルトを焦がす。
行き交う人の中、武彦はそれとは外れた道を歩いていた。
その理由はさつきと会わないためだ。本来、教室こそ違うものの、隣同士教室だ。もし正門から最短ルートで行けば、出会う可能性が高い。
だが、運命の神は皮肉なのか、食堂と部室棟の曲がり角を通ったところで、出くわしてしまう。
「あ、さつき……」
しかも、彼女は克也と一緒にいた。そして案の定、ご立腹の様子。
「あ、武彦。いいところに来た。なんか船岡先輩がしつこいのよ……!」
意外なことに彼女の怒りは武彦ではなく、克也に向いており、彼もまた不機嫌そうにおでこに手を当てている。
「先輩、なんなんすか?」
事情を察したというわけではないが、この際彼女にいいところを見せたいと思った武彦は語気を荒げて克也に詰め寄る。
「いや、まぁ、そうだな。武彦にも関係あるといえばそうなるんだ。その……さ」
「なんか先輩、私達の関係を心配してくれてるんだって。でも別にそんなことしてもらわなくて結構ですから。ね〜武彦」
すると昨日とはうってかわって猫なで声を発するさつきは武彦の腕を取ると、すりよるようにする。
「あ、ああ……。別に自分達、普通に付き合ってますし、何も心配してもらう必要なんてないっすよ……」
後ろめたいことならあるのだが、この際どさくさに紛れて仲直りできるならしめたものと、武彦は彼女を抱き寄せる。
「そうか、ならいいんだが……」
そう言いつつもどこか不完全燃焼気味な克也は、眼鏡を直すとそのまま部室棟のほうへと歩いていく。
「なにがあったの?」
克也の姿が見えなくなったところで、武彦はさつきに声をかける。
「あ、あのさ、過去問題もらいに行ったら船岡先輩が居て、それで、なんか武彦とは付き合ってるのかとか、なんか変なこと無かったかとか、そういうこと聞いてくるのよ」
飲み会の場にいたのだから、彼もそれを知っていておかしくないはず。そもそも、個々人の付き合いにわざわざ口を挟む理由があるのだろうか? 武彦は後ろめたさも忘れて首を傾げる。