第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-1
「ぅ、ああっ、んっ、あぅ、ぁあぁああっ!」
パンッパンッ!と腰をぶつけ合う音が薄暗い室内に木霊する。
わずかに粘性の液体が擦れる音も混じり、淫猥な二重奏を奏でていた。
魔導照明の落とされたあまり、広いとはいえない部屋。
その面積のほとんどが書物を限界まで詰め込まれた書架と、使用目的が一見では判断できない魔法器具や魔法薬の詰められた薬瓶に占拠されていた。
そんな部屋の端に置かれた、飾り気のない寝台の上で一組の男女が営んでいる。
男は銀髪を後頭部で一つに纏めており、その顔立ちは、切れ長の瞳といい、血の気のない唇といい、冷血漢を思わせた。
この部屋の持ち主、パスク・テュルグレである。
若干、二十四にしてラクシエラ大陸最南端の強国、ゴルドキウス帝国の魔導中隊長の肩書きを持つ凄腕の魔導師だ。
そんなパスクに四つん這いにさせられ、背後から腰を打ちつけられているブラウンの髪の美女。
パスクの動きに合わせ、嬌声を上げる彼女の名はアリス・バハムント。
ゴルドキウス帝国に隣接する――隣接していた小国リンクスの聖騎士にして、リンクス王女エレナの親衛隊員である。
そのリンクス王国も先日、ゴルドキウス帝国の領内へと取り込まれた。
侵略、占領されたのだ。
では、なぜ、その占領国の女聖騎士と被占領国の中隊長が交わっているのか?
捕虜となった女官や女騎士が慰みものになる、というのは良く聞く話しだが、この二人の関係は違った。
どちらか、というとパスクはアリスを慈しむように愛するし、アリスもその愛を受け入れているのである。
この二人、実は十三年前に一度、会っていたのだ。
幼少のアリスは同じく、まだ幼かったパスクの命を救ったのである。
その時まで、名前すらなかったパスクはアリスから貰ったその名に歓喜し、その恩に報いるために帝国兵としてアリスを捕虜としたのだった。
その後、誤解や忘却によるすれ違いもあったが、最終的に二人は、そんな仲になったのである。