投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『魔人』と『女聖騎士』
【ファンタジー 官能小説】

『魔人』と『女聖騎士』の最初へ 『魔人』と『女聖騎士』 74 『魔人』と『女聖騎士』 76 『魔人』と『女聖騎士』の最後へ

第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-37

――事情も知らず、手前勝手に憤る。

こんなリンクス貴族がパスクという存在を作った。

罪もないどころか、罪を罪として解釈できない少年を追放する国を彼は怨み、滅ぼした。

そんな彼の心を、自分たち貴族などよりもよっぽど平民の心を知る彼の心を疑ったのか、私はっ!?



アリスは胸が苦しくなった。

そんな彼女の頬を当の青年がそっと撫でた。

頬を伝う涙をぬぐう。



「……なぜ、泣くのですか?」



「だって、私は、きみを――パスクをっ!」



「アリスさん。貴女になんと言われようが、どう思われようが、私の気持ちは変わりません。貴女だけです。この世界のすべてがね。ですから、アリスさん。なにも泣くことはない。アリスさんはアリスさんでいて下さい。己の正義を指針に憤怒する。それで良いんです」



「パスク――」



アリスは銀髪をところどころ、地で赤く染めた魔導師の青年を潤む瞳で見つめる。

ニコリ、変わらぬ笑みを浮かべるパスク。



――彼の好意に甘えてはいけない。

ソレは分かっている。分かっているが――。



アリスはしっかりとパスクの腹部に包帯が結ばれているのを確認するとおもむろに、ギュッと抱きついた。

目を細めると先ほどとは違う由来の涙が溢れてきた。



――きっと、自分はいけない、と思いながらもずっと彼に甘えてしまうだろう。

パスクは優しいから、それでも自分を愛してくれるはずだ。

だが、それではいけない。

自分はリンクスの『聖騎士』なのだから、『魔人』の好意に漠然と甘えてはいけないのだ。

だが、それでも、今日は――今日だけは……。



今度の涙は暖かかった。

アリスの栗色の髪を梳きながらパスクは思い出したように言った。



「――アリスさん。ただいま」



「〜〜っ!おかえり、パスク!」



さらに強く、アリスはパスクを抱く腕に力を込めた。


『魔人』と『女聖騎士』の最初へ 『魔人』と『女聖騎士』 74 『魔人』と『女聖騎士』 76 『魔人』と『女聖騎士』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前