第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-36
「あ、あんたねぇ……腹に風穴開けといて、自分を信じもしない恋人を庇うのかっ?どうかしてるぞ」
「ッ?――パ、パスクッ?怪我してるのかっ?」
――なんで服の血痕を見て気付かなかったのだろう?
アレは返り血ではない。内側から染み出た血液ではないかっ!
アリスはパスクに駆け寄ると服をたくし上げた。
すると、すでに見慣れたといっても良いだろう腹部に大きな裂傷があった。
「なんで言わないんだ!こんな大怪我――」
「いえいえ、そんな……応急処置は済ませていますし、消毒もしっかりと……」
「その程度ですむ傷じゃないだろう!誰か、救急用具を――」
アリスの声に応えるかのようにジーンが救急用品一式の納められた布袋を持ってきた。
無表情ながらも息を切らせているあたり、実は動揺しているのかもしれない。
アリスはチラリとそんなどうでいいことを考えながらも、手際よくパスクの傷の手当をする。
よく見れば、腹部以外にも身体中に小さな傷を負っていた。
――パスクが傷だらけになって戦っている間、私はなにをしていた?
……なにもしていないっ!
それどころか、そんな彼に幻滅など――
アリスの口からは自然と謝罪が漏れた。
「すまない……すまない、パスク。私はきみを、こんな大事なときなのに、信じられなかったんだ。きみがゴルドキウス人だからだと。その地へと追放したのはリンクスだというのに……本当に、なんと言って良いか……」
いつの間にか、ポロポロと涙が溢れてきた。