第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-33
「やはり、あの闇の柱は……パスクが?」
「そうよ。あの魔法は黒魔法――パスクの使う魔法だけど――その中でも召喚系統では最高位のモノなの……」
「ああ。ジーン・クルバも言っていたな」
アリスは顎に手を置くと記憶を辿り、頷いた。
そして、続ける。
「それで……一体、なんなのだ?」
「なにねぇ……。魔導師相手にだって難しいのに、アンタじゃあね。まぁ、簡単に言えば召喚するのよ。『魔界』の入り口を――」
「…………は?な、なにをっ」
「あら?その顔は信じてないはね?当然っちゃ当然だけどさ。でも、私は嘘をついているわけでも、からかっているわけでもないから」
「じゃ、じゃあ、パスクは魔界から妖魔や魔族を召喚して使役できるのか?」
アリスは目を丸くして訊ねた。
もし、そんなことができるなら、彼一人で過言ではなく一国と戦える。
しかし、パンはフルフルと首を横に振った。
「あのね、一般人は勘違いしてるけど――『召喚』と『使役』は別の系統の魔法なのよ?召喚は呼ぶだけ。使役はゴーレムやガーゴイルにやるような『命令』系統の魔法」
「そう、なのか……んっ?ちょっと待て!ということは――」
「そうだ、アリス。あの魔人はただ単にあの場を魔界にしただけだ。騎士以外にも大勢の人間が働いている砦をっ!」
割って入ってきたマデリーンは怒りに燃える瞳で白猫の魔獣と赤髪の女魔導師をにらんだ。
だが、マデリーンの意見にはアリスも同意する。
魔界から続々と妖魔たちが召喚されるのならば、砦で働く者はもとより、騎士だって何人生き残れるか分かったものではない。
それほどのことができるなら、他にも打つ手はなかったのだろうか?
助けてもらった身分ながらも、非戦闘民を死地に追いやるなど怒りを感じざるを得ない。