第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-31
――ゴオォォオォォゥゥ…………。
その時、野獣の雄叫びが街道の走る平坦な野に木霊した。
いや、聞いたことはなかったが噂に聞くドラゴンの咆哮といったほうが適切かもしれない、そんな魂を揺さぶられる叫びだ。
そして、さっきまで燦々と照りつけていた日差しがフッと陰り、辺りを闇が侵食した。
まるで、夜だ。
――まだ、正午を過ぎて幾ばくか、といった時分なのにも関わらず!
なんなのだっ?
そして、次の瞬間、砦から、火柱の如く『闇』が噴き出した。
ただ黒いのでない。延々と底の続く『闇』である。
――どれくらい経っただろう?
数秒か、一分か、一時間か……。
時間の感覚が奪われるほど、その闇の柱にアリスは目を奪われた。
それでも、砦からの距離を見ても、それほどの時間が過ぎてはいないはずだ――と思う。
発生のときと同じく、闇の柱はなんの前触れもなく沈静した。
そして、平原には日光と色彩が戻り、何事もなかったかのように馬車は前進する。
ガタゴト、という音が妙に耳に付いた。
何故だろうと、アリスが首を捻るとすぐに理由は分かった。
――誰も口を開こうとしないのだ。
エレナも、パンも、マデリーンも、そして――自分も。
あの闇に言葉を飲まれてしまった、そんな感覚に陥る。
四十名もの人間が乗っているとは思えないほど静かに五台の馬車と三騎の騎馬は街道を駆けていった。