第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-29
「そう言ってんでしょうがッ!」
「だが、あれは……八つの宝玉と触媒、術式を――」
「とっくに完成してる!パスクがこの砦に来た五日後にねっ!」
「そん、な……」
「アンタは嬢ちゃんと、私はボウヤと一緒に親衛隊の連中を誘導する!」
「わ、分かった!」
慌てふためくパンとジーンにアリスは疑問符を浮かべる。
そんな女聖騎士へと白猫の魔獣は怒鳴った。
「アンタもよ、アリス!巻き込まれたら死ぬわよっ、手伝いなさい!」
「……?」
「早くっ!」
「りょ、了解した」
パンの剣幕に押され、アリスは白き魔獣の後に続いた。
去り際にチラリとパスクを見ると何事か呟きながら、先ほどの複合魔法の威力に足の鈍い敵兵たちを牽制している。
牽制に使っているのは『黒雷』――無詠唱魔法なのだろうから、いま、唱えている呪文は別の魔法のためのモノだろう。
――どうか、無茶は――してしまっているから……どうか、無事で!
きっと、自分が声をかけたら、呪文を中断してでも返事をしてしまうだろう、と予測できたため、アリスは心の中だけで、そう祈った。
すると、一瞬、振り向いたパスクが微笑んでくれた。
自分も(似合っていないかもしれないが)小さく微笑み返した。
すると、パンの怒鳴り声が聞こえたため、アリスはあわてて駆け出す。
もう一度見ても、丁度、魔法を放とうとしている瞬間だったため、顔は見れなかったが、それでも、アリスは心底の、感謝と応援の眼差しを送った。