第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-26
「パ、パスクッ!きみはこの事態に陥ることを始めから、予測――いや、予定していたのかっ?」
当初は手を引かれていたが、そこは騎士と魔導師――いつの間にか並んで走るパスクへとアリスは叫ぶように訊ねた。
すると、パスクは悪びれもせずに答える。
「え?そうですが……」
「〜〜〜〜っ!」
――だったら、先に言えっ!
アリスはそう怒鳴りそうになるのを必死で堪えた。
もう、数秒で親衛隊の待つ陣に到着するからだ。
「ゲルハルトッ、パトリシアッ!」
「こっちはオッケイっす!」
「こちらも!」
大地を滑り、勢いを殺したパスクの声に『早波』所属の二人の部下は同時に頷いた。
アリスが自分たちを取り囲む敵方を見ると、ようやく事情を理解できたのか、指揮官の命令も待たず――その指揮官が命を落としてしまったため、上官たちは暫定で誰を指揮官にするのか右往左往しているようだ――それぞれの得物を構え、こちらへと走りだした。
さらには幾重もの魔法攻撃も降り注いでくる。
しかし――、
ゴゥンッ、ドンゴンゴンッ…………。
自分たちへと向かってきた『火球』や『風の刃』は遥か手前で不可視の壁に行く手を阻まれ、盛大に弾け散った。
ゲルハルトとパトリシアの仕業だということは考えるまでもない。
「パスク……やるぞ」
「ええ。嫌な役をさせてしまいましたからね。今日は貴方がメインで――」
「ふっ、気にするな」
アリスを背に庇うパスクへとジーンが囁きかけた。
パスクは頷くと長杖を差し出す。
すると、ジーンもその杖先に己の短杖の先を交差させるように置いた。