第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-22
「貴方は……誰でしたっけ?」
「なんだとっ!」
「くくっ――冗談ですよ。まさか、部下に噛みつかれるとはねェ、グエン」
パスクは魔導師――グエンという名らしい――をにらんで言った。
グエンは一瞬、顔を真っ赤にしたが、すぐに平静を取り戻すと答える。
「部下だとっ?……ふ、ふんっ。もう、俺はおまえの部下じゃねェ!そして――」
グエンがパチンッと指を鳴らした。
なんだろう、と視線を巡らそうとしたアリスの首筋に冷たいモノが当てられる。
「――ッ!」
アリスはとっさに腰の剣へと手を伸ばそうとしたが、その腕は捕らえられ、背中へと回されて極められてしまう。
頭を動かさずに、視線を向けるとその剣の持ち主は――漆黒の魔導騎士、ジーン・クルバであった。
「アリスさんっ?ジーン……きみは――」
気配で察したのだろう、振り向いたパスクは青い顔で叫んだ。
「はははっ!おまえの部下などにはなりたくなかったのさ、俺もジーンもな。なにが同期だ!一番、入学が遅かった、平民のクセに……」
パスクを背後からグエンが罵るが、おそらく、伝えたい相手の耳には届いていないだろう。
パスクはジーンを凝視している。
ゲルハルトやパトリシアの「ジーンさんっ!」と呼びかける声も聞こえたが、ジーン本人には動揺のかけらもない。
アリスだって聖騎士の称号を持つ剣士だ、剣越しにその程度のことは分かる。
そして、このジ−ンが魔導師としてだけでなく、剣士としても極めて優秀だということも――。
「…………パスク。アンタの杖をくれ。素直に従わなければ……」
「従います。アリスさんが人質ならばなんだってね」
ボソリ、とジーンがパスクへと言った。