第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-16
――ザッ!
「ッ?」
パスクの前に二人の男女が立ち寄った。
丁度、地下牢から出てきたエレナの親衛隊とのあいだに割り込むような格好である。
見ると、親衛隊の面々がパスクを見つめていた。
殺気立っている――とまでは言わないが、好意的な視線ではまず、なかった。
そんな捕虜を警戒しているのだろう。
ゲルハルトも所属する『早波』小隊は、他の小隊とは違い、前線に突貫する中隊長パスクを護衛するために組織された小隊だという。
パスク自身が選考した隊員はゲルハルトを除き、二名――計三名である。
すでにアリスはその二人の紹介も受けていた。
真紅のマントを纏った、紫色のワンピースの女性はパトリシア・ミラー。
マントと同系色の赤毛の髪を三つ編みにし、肩口から胸へと垂らしている、気の強そうな目鼻立ちの娘だ。齢は二十歳前後――アリスよりも三つ四つ、年下だろう。
そして、もうひとり。
闇色の軽鎧を纏った、一見は剣士にも見える男が『早波』小隊隊長――名はジーン・クルバである。
腰には長剣を差しているものの歴とした魔導師で、その実力は『陸の波濤』の二番手――パスクに次ぐほどらしい。
パスクとは同い年で、魔導学院での卒業学年も同じ、師事していた教師も同じだったというから、仲の良いことだろうと思っていたが、どうやら違うようにアリスには見える。
この黒髪を短く切り揃えた男は無口、無表情でパスクがなにを言っても一言二言の返答で済ましてしまうのだ。
それでも、護衛小隊の隊長に据えるくらいだから、もしかしたら、信頼関係はあるのかもしれない。
ただ、パスクが他人を疑わない気質なだけかもしれないが――。
だが、いまはそんなことを考えている状況ではない。
親衛隊たちも甲冑はなくても、武器ならば手元に戻ってきていた。戦えないことはない。
しかし、ここで争いごとになれば、いくら人気のない場所でも、砦の者たちにすぐに見つかってしまうだろう。
そしたら脱出云々の話しではなくなってしまう。
そんなアリスの心配を他所に、親衛隊たちは各々の武器に手をかけ、パトリシアやジーンは短杖を抜いた。
殺伐とした空気が流れる。