第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-14
――相手が悪かった。
ゲルハルトが先ほど口にした『丹色の銀星』の他に、もう一つ、仲間内だけでこっそりと読んでいる二つ名がマデリーンにはあった。
『鮮血色の処刑鎌』。
――これは、きっと、本人に面と向かっていったら、それこそ自身を鮮血で真っ赤に染めてしまうことだろう。
おそらく、リンクス王国最強(最恐)の女騎士――マデリーン・ローゼンハーム。
三十二歳、……独身。
さすがにこれ以上、ゲルハルトが騒いでも困るし、殺されたらもっと困るので、アリスはマデリーンに正直に、ここ数日間の出来事を告白した。
「…………ふぅん。ほうほう――。つまり、アリスは敵兵の、しかも姫を人質にとった輩と恋仲になったと?」
「す、すみませんっ!」
アリスは目をギュッと瞑ると頭を下げた。
――なまじ、自分の行為を文章化されると結構な不忠騎士だ、私は。
というか、隊長の口調が恐ろしかった。キレたときのパスクといい勝負だ。
どうなるか、不安にさいなまれるアリスの耳に、快活な笑い声が響いてきた。
「くっ――ぷっ、くくっくっ……。そ、そうか、あの鉄のようなアリスがな。くはははっ、コレは良い。傑作だなっ。はははっ!」
「……?あの、隊長。怒ってないのですか?」
「うぅん?おまえは怒られるようなことをやったのか?」
「い、いえ。ただ、隊長はお怒りになるかと……」
「馬鹿を言え。怒らん怒らん。他人の色恋沙汰に喚くほど若くも、老いてもいないぞ、私は?」
そう言うと再び、「くっはっはっ」と男前な笑いを始めるマデリーン。
安堵するアリスの横でゲルハルトが「かっけぇ……」と小さく漏らした。