第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-13
「それで?その男は?」
そんなアリスの内なる葛藤など知らぬマデリーンは銀槍を肩に担ぐとゲルハルトを見て、訊ねてきた。
「えっ、と――彼は……」
「あっ――自分、帝国第十六魔導中隊『陸の波濤』の『早波』小隊所属ゲルハルト・ブリッツエルっす。よろしく、『丹色の銀星』殿」
「ああ……」
アリスの口から自然と溜息が漏れた。
――か、勝手に自己紹介してしまった。マズイ、この男……殺され、
ヒュンッ!
「ひぃ!」
アリスの思考を追い抜いて、マデリーンの身の丈を超える銀槍の刃がゲルハルトの首筋へと突きつけられた。
しかし、それは突きつけるというよりも、正確には首をはねる直前で止めてやった――という感じだ。
小さな悲鳴を上げたゲルハルトを見ると額にびっしりと脂汗が滲んでいる。
マデリーンが、まるで地獄の淵から響くような声で言った。
「つまり、おまえは、『魔人』の配下だな?」
「は、はい〜……舎弟っつーか、護衛みたいなことをやらせていただいているっす……」
「なんでもいい。つまりは敵か?敵だな?敵で良いんだよなァ?」
「い、いやいやいや……敵じゃないっすっ!マジで!元敵?昨日の敵は今日の友っていうか――」
「ごちゃごちゃと喋りたがる口だな?――――キリオトスゾ」
「ひぃいぃぃっ!いやっす、いやっす、いやっすぅぅっ!」
ゲルハルトはプルプルプルプルと必死に首を小刻みに震わせて、命乞いを始めた。