第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-11
三日後――エレナ王女、移送当日。
アリスは聖騎士甲冑に加え、投降時に奪われていた愛剣を腰に差し、アムシエル砦の最下層、地下牢へと来ていた。
「あっ、アリスさん。そっちの見張りは買収してないっす。こっちに……」
前を行く藍色のローブに身体を包んだ青年が、自分が進もうとしていた方とは違う通路へと進みながら手招きした。
この男の名はゲルハルト・ブリッツエル。
『陸の波濤』魔導中隊、『早波』小隊の隊員だという。
つまり、パスクの直接の部下だ。
現在、パスクとアリス、そしてこのゲルハルトを含めた『早波』小隊の三名がエレナ王女と、砦の地下牢に繋がれている三十七名の親衛隊の奪取に動いている。
パスク以下二名がエレナを、アリスとゲルハルトが親衛隊を――と取り決めていた。
作戦は砦の外にすでに用意された移送用の馬車へと「出立時間が早まった」といって、王女と親衛隊を乗せ、そのままペガスス王国の国境を越える――という、まぁ、穴だらけにも見える大胆なモノだった。
しかし、ここまで派手だと、逆に相手も予想できず、意表を付くこともできるだろう。
もう少し、まともな作戦も計画していたらしいが、時間が足りず、準備ができなかったのだという。
アリスは一度、剣の柄を叩くと決意の眼差しでゲルハルトに続いた。
――ガチャンッ
地下牢の中でも最深部に設けられた独房。
その鉄製の扉の、これまた鉄製の錠をゲルハルトは『解錠』の呪文で開けた。
対魔法が掛けられていなければ、大抵の錠前はこの呪文で開けることができるのだという。
そして、砦の牢に対魔法を掛けるなど、無駄なことは普通しないのだ。
「……隊長?」
アリスは照明のない薄暗い部屋へと小さく、しかし、はっきりと呼びかけた。
この独房に繋がれているのはエレナ親衛隊隊長マデリーン・ローゼンハーム――リンクス王国でも屈指の実力を持つ槍使いで、アリスの上司、そして、同じく聖騎士である。
ぬぅっと、仄暗い闇が動いた気がした。