第一話 ―― 魔人と魔獣と魔導騎士-10
「……私、聞いちゃったのよ。ほら、姿を消せるじゃない?それで、砦をうろついてたらさ、デュッセル将軍と副官のおっさんとの会話をさ〜」
「ほう?」
「パスクがエレナ王女に会ったじゃん。五日前に、二人っきりで――」
未だに、リンクス王第一子エレナ姫はこのアムシエル砦の一室――敗戦国と言えど、さすがに王族を牢に入れるわけにはいかないのだ――に監禁されている。
というのも、先にも述べたとおり、リンクス国内に皇帝がおり、その帰還と共に帝都へと移送する予定であった。
もしも、パスクがアリスを引き取らなかったら、彼女も一緒に帝都へと連れて行かれていただろう。
パスクは使い魔の言葉に頷く。
「ええ。アリスさんの手紙を献上したくて……。ですが、許可は取りましたよ?それこそ、将軍自身に」
「そのときはまだ、あっちも不信感がなかったんでしょ。でも、いまは違うわ。アンタのその捕虜への溺愛ぶりが問題になっている」
「はぁ、なるほど。それで、将軍はなんと?」
「――エレナ姫の帝都への移送を早めるって。もし、パスクが反逆の徒であれば、動くはずだろう、と言ってたわ」
「そうですか。エレナ様の移送を、ね」
「だから、前もって言っておくけど。アンタはその間――」
「分かっています、パン。ありがとう」
「……べ、別に、主が反逆者なんて堪らないからね」
「――パン、すみません」
「ふにゃっ!?パ、パパパスクッ?謝るって、アンタ……まさかっ!」
「ええ、こっちも計画を前倒します」
「…………処置ナシだわ、アンタ。もう、私……なんで、こんなのの使い魔なんだろ?めっちゃ、不幸――」
ニコニコと笑うパスクと、諦めたように溜息を吐いたパン。
そんな主従を見て、アリスは堪らず疑問を口にした。
「え?えっ?――どういうことだ?」
「大丈夫ですよ、アリスさん。貴女と姫はちゃんとお守りしますから……」
パスクはソッとシーツに包まれたアリスの肩を抱き寄せた。