龍之介・四-6
「今日は水曜日だろ、大学はどうした」
「今週いっぱいはまだ夏休みだよ。高校までと違って長いの、だから平気なんだ」
「で、でも・・・」
「いいからおいで。姉さんのいうことが聞けないのかぁ?」
俺の脇腹を握りこぶしでぐりぐりしながら唇を尖らせ、悪戯っぽく笑う姉さん。
(許して・・・くれる、のか・・・?こんな俺を・・・)
姉さんは俺を許してくれない。
それは只の思い込みだったんだろうか。
それとも、姉さんには何か考えがあるのか。昔からはっきり言わないところがあるから、或いは・・・
「離してくれ」
一緒にいたらいけない。
いつか近いうちに必ず姉さんを傷付けてしまう。
俺はもう純粋に姉さんを愛する事はできないんだ。
離れてようやく忘れられたと思っていたのに。
「やだ〜」
「ふざけないでくれ。さあ、離せ。やめろ」
背中に抱き付いて離れようとしない。どうしてそんな真似ができるのか分からなかった。
まるで、小学生の頃に戻ったみたいに甘えている様にも見えた。
「・・・龍くん」
はしゃいでいた姉さんが急に声のトーンを落とした。
そして、俺の腹に添えられた指に力が入る。
「私の傍に居て。お願い、龍くんが居ないとダメみたい」
「だからふざけるのはやめろって。何回も言わせ・・・」
こつん、と額で背中を叩いて、それきり黙ってしまった。
(このまま帰るのか。お願いまでした姉さんを、独りぼっちで置いていくのか)
聞いてはいけない声が聞こえた気がする。
もう一年以上も独り暮らしをしてるだろ、とその声に心の中で反論した。
「・・・じゃあ、今日だけ居てやるよ」
果たしてその時姉さんがどんな顔をしたのかは分からない。
もう一度見せてくれた時は唇を尖らせていて、姉さんに生意気な口を聞くなと小突かれてしまった。
「分かればよろしい。もう、寂しかったんだぞ。電話もメールもよこさないで」
今日だけだ。
お願いされて仕方ないから今日だけ一緒にいるだけだ。
そうしなきゃ、もう離れられなくなっちまう−
これが最後のチャンスだ。きっと
〜〜続く〜〜