龍之介・四-5
「隠れてんのか?」
「うん・・・そこ、あの下にいる、昨日から出てない、多分」
ベッドを示す指は緊張でぴんと張り詰めている。
その姿は、初めて奴に遭遇した時と全く変わっていなかった。
「ティッシュ貰うよ」
「気をつけて龍くん!」
下を覗き込むと、也をひそめていた奴が蠢いていた。
逃げる姿を見せたら姉さんが怖がる、勝負は・・・一瞬だ!
「お、終わった?!」
奴をティッシュで丸め込みそのままトイレに流してしまった。
そういや、久々だな。こういう任務は。
「ああ、終わりだ。あっけないだろ」
「さすが龍くん!やっぱり頼りになるぅ〜〜」
俺の腕に体を押しつけてくる姉さん。
柔らかいものがめり込んで思わず変な気分になるが、我慢した。
「何分かかったと思ってんだよ、たかがこんな事で気軽に呼ぶなって」
「私だって戦おうとしたわよ!でも無理、まともに見れなかったんだもん」
口ではさておき
本音は、悪い気はしていなかった。
もう二度と姉さんに会う事は出来ない、そう思ってたから
「もう用事は済んだな。じゃ帰るから」
だからと言ってまた仲良くなれる理由にはならない。
きっと俺はまた同じ事を繰り返してしまう。もう会っちゃいけないんだ。
「こらこら、待ちたまえ。およそ半年ぶりに会う姉上にたいして、随分素っ気ないではないか」
「勘弁してくれよ。週に一回しか無い休みを虫退治で潰したくないぜ。大体、出来ないなら友達に頼めば良かったろ」
「だって女の子ばっかだし、あんまり男友達いないし。私が昔からそうなの知ってんでしょ」
へえ、今もそうなのか。
街に染まろうが中身ってのは簡単には変わらないんだな。
・・・俺が付けた傷も塞がってないんだろう、きっと。
「そうだ、今日は泊まれば。仕事場もこっちからの方が近いんだって?」
「何で知ってるんだ?!」
「母さんは何でも話してくれるのだ。最近は広田さんって人に可愛がられてるらしいね」
全部筒抜けだったのか。
こりゃ、今後は迂闊に話せないな。
母さんがそういう人だとは知ってるし、別に怒ってはいない。ただ面倒だとは思った。
「悪い、本当に帰るぞ。また時間ある時に電話するから」
「なんで帰っちゃうの。お姉ちゃんと久々に会えて嬉しくないの?龍くん」
嬉しいも何も無い。姉さんは、平気なのか。
いま抱きついてる相手は、弟を装った・・・強姦魔なんだぞ。
自分があの夜何をされたのか忘れた訳じゃないだろう?