オカシな関係1-9
涼ちゃんはバカの一つ覚えで、待ち伏せをやめないので、ファミレスランチを復活させた。
人通りのある店の前で抱きつかれるのは、どうにも参った。
「そろそろ、止めない?それ」
「なんで?俺、コレ作るの楽しいんだ」
テーブルの上の小箱。
「こういうことができるって…すごく幸せなんだよ。美佳ちゃんが俺のインスピレーションの素だからね」
涼ちゃんが箱を見つめながら微笑む。
ひどく大人びて見えて。
「これ、売り出すことにしたんだよ。今まで作ったの全部を店に置くことはできないけどね」
涼ちゃんは頭を掻きながらそう言った。
「そろそろ、退散するかな。」
立ち上がった涼ちゃんが自分の口元に指を当てた。
なに?と思って見ていたら。
その指を私のくちびるに押し当てた。
「涼ちゃん!」
思わず、叫ぶ。
間接キス。
涼ちゃんは笑いながら逃げてった。
あはは、じゃないわよ。
どうも、抱き締められて以来、私に触れてくることが多くなった。
…不快感を抱かないというのはどういう事だろう。
私は少しずつ涼ちゃんを受け入れはじめているのだろうか。
それとも『愛すべき弟』だから?
結局。
中途半端なまま引っ張っている。
というより、切れてくれない。
もうやめようよ。
何度も言った。
その度に「嫌だ」と言って頑として受け付けない。
こういうところは困るぐらいに変わってない。
高校時代の友人がちょっとこちらに帰るので会わないかと連絡があった。
それで、いつももらっている涼ちゃんとこのお菓子を買おうと思った。
あれから、母さんが何回か注文して店の常連さんに渡したりしてる。
三つ入りの細長い箱に詰められたお菓子。
小さくても細かな細工の施されたソレはとても喜ばれる。
とても心を込めて作られているのが分かる。
だから、それを毎日もらっている私は逃げたくなるのだ。
今頃、いつものファミレスで私を捜しているかもしれない。
店の場所は母さんにきいた。
オレンジの屋根にクリーム色の壁。小さな、可愛らしい店だった。
看板には『ふわり』
「いらっしゃいませー」
可愛らしいエプロンをつけた恰幅のいいおばさんがレジに立っている。
身内ってわけじゃないらしい。パートさんなんだろう。『鈴木』という名札をつけている。