投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

オカシな関係
【コメディ 官能小説】

オカシな関係の最初へ オカシな関係 7 オカシな関係 9 オカシな関係の最後へ

オカシな関係1-8

「美佳ちゃん、これね。で、こっちはウチの自信作のケーキ。おばさんに渡してね」
「ありがと…」

いつもの小箱とケーキの箱。

「じゃね、ばいばい」

涼ちゃんはいつも通りに帰っていく。
いつもの光景すぎて、ウェイトレスも彼に付いて水を運んだりしない。

小箱を開けたら、小さなカップケーキ。網目模様の飴のハートとピンクのチョコレートのハートが飾られていた。

あいつの正体なんか知らなきゃ良かった。
そしたら、あいつの気持ちなんか知らんぷりできたのに。

──だって、私は恋人なんかいらない。

「…じゃね、…ばいばい」

その日を最後に私はその店でランチをしなくなった。





別に無くした物なんかない。
なのに、あいつがいつのまにか私の中に入り込んでいたらしく、ぽっかり穴が空いているような気がする。
がちゃがちゃうるさかったからね。
でも、まあ、そのうち慣れる。
強がりでもなく。
このまま。

過去には砂が降り積もる。
ひとつかみずつ。
初めは見えていたものも輪郭だけになり、やがてはそれも分らなくなる。

ただ、消えないものがある。
未だ鮮明に、私に突きつける光景。
これこそ、奥深くもう二度と見えないようしたいのに。
思い出したくないのに。

だから、全部まとめて埋めてしまいたいのだ。

じゃね…ばいばい。

でも、これは傷だから。私自身に付いて回る。
だから、埋まらない。
風化しない。

コレが薄まり、消えてしまうことがあるのだろうか。
もしくは、気にならなくなることがあるのだろうか。





「もー。なんで来なくなっちゃうんだよ」

涼ちゃんが私の腕を引いた。
待ち伏せされていた。
50メートルほど先に、スナックがある。

あのファミレスにいかなくなって3日だ。
なんで、行かないのか考えなさいよ。

「はい」

涼ちゃんは私にいつもの小箱を差し出した。

「だめよ。私、あんたのこと、弟にしか思えないもん」
「だめかなあ。俺、絶対大事にするよ?」
「はいはい。涼ちゃん、朝早いんでしょ。お家帰ってねんねしなさい」
「ちぇ。子供じゃないんだから。言われなくてもちゃんと寝るよ。」

そういうと、突然涼ちゃんの腕が私の首に回って引き寄せられた。

「それでも、大好き。俺、あきらめないもんね」

耳元でそう囁いて駆けだしていった。
鞄に白い箱がねじ込まれている。

ばか。ばか。
なんてことすんのよ。

でも、不思議。もっと取り乱すと思ってた。
少しずつ。好転しているのかもしれない。

赤い三日月がビルの向こうに消えた。






オカシな関係の最初へ オカシな関係 7 オカシな関係 9 オカシな関係の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前