オカシな関係1-7
「いてっ」
「いきなり、遠慮が消えたねえ。お前、言わない方がよかったんじゃない?」
「いや、いいんだよ。これも愛よ、愛」
ぺちん。
「ところで、涼ちゃん。美佳ちゃんに渡してたお菓子だけどいつもどこで買ってくるの?おばさん、ちょっと買いたいって思ってるんだけど高い?」
「えーと。あれはですね、試作品ていうか、オリジナルなんですよ。だから、売ってないんですよね」
「おりじなる?」
何をいってるんだろう?この男。
「お前……そこも伏せてんのか?」
「伏せてないよー。俺が作ったってちゃんと言ったよ」
ソレって冗談じゃなかったの?
てことは?
「えー。あんたパティシエかなんかなの?」
「違うよ。菓子職人」
「どっちも一緒でしょ」
ぺちん。
「違うー。うちは別にフランス菓子ってわけじゃないからね」
なんだかこだわりがあるらしい。
「圭ちゃん、この子達、話の腰をぺきぺき折るから分りにくいんだけど。涼ちゃん、店だしてるってこと?」
「そう。こじんまりとしたケーキ屋。で、試作品というか姉貴仕様の菓子をつくって渡してたってことみたいだなあ。結構流行ってんだよ」
「じゃあ、今度買ってきてよ」
「いいよ」
「あ。是非。あらかじめ注文入れてもらえたら、対応しますよ。勉強させてもらいますから。えーっと、うちも厳しいんで、そこはなるべくーてことで」
何よ、ちゃんと営業用に言葉使えるんじゃないの。
「と。俺、そろそろ帰るわ。仕込みあるし」
「おう。悪かったな」
「じゃあね。ばいばい。あ、お茶、ごちそうさまー」
涼ちゃんはファミレスから帰るときと同じようにニコニコ笑って手をふった。
代金を払う気はないらしい。
まあ、涼ちゃん相手に商売するつもりはないけど。
……っていうか、寧ろこっちが払うべき?
「と、いうことなんだけど。大体、把握できた?」
「まあね」
私は頷いた。
「ねえ、美佳ちゃん、あの子また肝心なこと忘れてるわよ。と、いうか…。あの子の中では決定事項なのかしらね?」
「なに?」
「ほら。好きだーとか。お付き合いしてくださいーとか」
「えー。なにそれ」
「その、お菓子、そういうことでしょ。あれだけスキスキ光線出しまくりで。分らない方がおかしいわ」
「だなあ」
圭ちゃんも母さんもニヤニヤ笑う。
「なによう?」
「私はいいと思うわよ」
「僕もいいと思うよ。あいつチョロチョロしてるけど、根は良いし。意外としっかりしてんだ。そうでなけりゃ、店をぶちあげるなんてことできないし」
圭ちゃんが立ち上がる。
「さて。僕もそろそろ帰るわ」
そういうと、圭ちゃんも店から出ていき扉がしまった。
涼ちゃんは愛すべき弟分だ。
だから、恋愛という意味で好きとは言えない。
これが正直なところだった。