オカシな関係1-6
「あ、おばさん、こんばんは」
なんで、母さんが知ってるのよ。
おもしろくない。分ってないの、私だけじゃないの。
「ふふふ…あははっ…。そうそう、この子だわ。元気そうねえ」
「おかげさまで。こっちに帰ってきたんですよ」
「美佳ちゃん、本当にわかんないの?」
母さんがこっちに話をふってくる。
知らないってば。
3人とも私が知ってて当然みたいな顔して。
「ほらみろ。肝心なヤツが一番分ってないぞ」
ぺちん。
「うそーん。美佳ちゃん、それマジ?俺なんか一目で分ったのにー」
「もういいから、名前言え」
「えー。思い出してもらえず、自分で言うの?落ちの説明するのは、最悪だよ」
「お前の名前は落ちかよ。実際、最悪なんだよ。伏線張らずにどうやって落すんだよ。バカ」
「ちぇ。藤川涼です。はじめまして」
「はじめましてじゃねえ」
ぺちん。
「………涼ちゃん?」
私はようやく思いだした。
圭ちゃんの同級生。
泣き虫のクセに負けん気が強くて、仲良しだった。
私と圭ちゃんはいつもいじめられてて。
それはたぶん、母さんがシングルマザーであることに由来する。
大人の悪口は子供に伝染する。
子供は残酷だから、私たち姉弟はいじめてもいい対象という認識が子供達の中に無意識にあったのだろうと思う。
無視。モノが無くなる、壊される。場合によってははめられ悪者にされる。
それは、先生が思っているより日常的で。
『圭ちゃんも美佳ちゃんも悪くないよ。いじわるしたのアイツらなのに。どうしてボクらが怒られるの?』
なにか、もめ事があれば決まって、私たちが悪者だった。
育ちがどうの、片親がどうの。
涼ちゃんも他の子と同じように、私たちに関わらなければ巻き込まれたりしないのに、どういう訳が泣きながらくっついてきてた。
開店前のこの店で3人、母さんが出してくれたソーダ水を飲んだっけ。
いつだったか服を泥だらけにしていて聞けば転んだと言い張る。
たいした怪我もしてないクセに、泣くからよくよく聞けば、いじめっこに水たまりに突き飛ばされたらしい。
『ばかだな。ボクらといるからだよ』
『だって、ボク、圭ちゃんも美佳ちゃんも大好きだよ。すごく優しいしさ。…アイツらなんか嫌いだもん』
泣きながらも自分の思ってることは曲げない。
そんな子だった。
何年生だったか忘れたけど、小学校のときに転校していって、それ以来逢ってなかった。
大人になった顔なんか知らない。
でも、そう言われると面影が。というか、この童顔め。
なんか沸々としてきたぞ。
「……。それをとっとと言わんか」
ぺちん。
私もヤツの額を叩いた。