オカシな関係1-5
テーブルを拭いているときにドアが開いた。
ひょこっとあの男が顔を覗かせた。
「あ、美佳ちゃん、おはよ。じゃなくて、こんばんは?」
にこにこ笑って入ってきた。
「もー、圭ちゃん、なんで起こすんだよ。俺、朝早いの知ってるでしょ」
「お前がマヌケやってるからだろ」
カウンターの圭ちゃんの横に座った男の額を、圭ちゃんがぺちんとはたいた。
「痛いよ。有段者は暴力ふるったら犯罪だよ」
「誰が犯罪だ。そんなの暴力のうちに入るか」
なんなんだ、この漫才は。
圭ちゃんがつかつかとカウンターに入ってきてウーロン茶を出した。
「アルコールじゃない方がいいよな?」
「あ、うん。酒はだめ」
「氷は?」
「うーん。冷えてるんでしょ。それ。だったらいらないよ」
グラスに注いで男に出すと、圭ちゃんはカウンターから出て元の場所に戻った。
どういうことなのか良くわからないまま、私はカウンターに入った。
圭ちゃんが、からりとグラスを傾けて一口飲み込むと本題に入った。
「姉貴はお前のことなんか知らないって言ってるぞ。ストーカーか。」
ぺちん。
圭ちゃんがまた男の額を叩く。
「えー。美佳ちゃん、お菓子受け取ってくれてるよ?」
「お前が勝手に置いて帰るからだろ」
「でも、お菓子好きなんだよね?美味しいよね?」
男は私の方をみて聞いた。
「うん…。まあ…」
返事に困る。そこは認めるけど、結局あんた誰よ。
「毎日ホワイトデーかよ」
ぺちん。
また、圭ちゃんに叩かれる。
「だから。お前が誰だか分ってないぞ」
「美佳ちゃんが食べてくれたら俺、幸せだし」
「ごんぎつねか」
ぺちん。
「あー、それもいいなあ。俺、鉄砲で打たれんの。うっ!」
男は胸を押えて俯いた、と思ったらぴょこんと顔をあげた。
「でも、自分のことより美佳ちゃんが喜んでくれたら嬉しいの」
にこにこ笑ってる。変なヤツ。
「ああ!私、この子分ったかも!」
後ろのボックス席に座って成り行きを傍観していた母さんが突然叫ぶ。