龍之介・参-7
「とっても喜ぶわよ、龍之介。葵が受かればいいなっていつも言ってたもん」
「そっ、そうだね。ちゃんと報告しなくちゃ」
「でも・・・寂しがるかもね。家から通える時間ならいいんだけど」
「距離はそんな離れてないんだよね、でも乗り換えが多いから、毎日だと大変だからさ」
龍之介には・・・言えない。
実家を離れる、なんて知ったらどんな顔をするのか考えたくなかった。
以前に龍之介と、もし私が第一志望に受かったら通学時間がかかりすぎるって話したから、覚悟はしてると思いたい。
(・・・まだ私は龍之介が心配なんだ)
複雑な心境だった。
離れたらもう、欲望の捌け口にされる事はない。もっと喜べるはずなのに・・・
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「お父さん、さっきから肉食べ過ぎよ!」
「ん?そうか?気のせいじゃないか」
そう言いながら、箸で挟みきれない程のお肉を持ち上げようとしてる父さん。
落とすと思ったらその通りで、跳ねたスープが手についていた。
「葵にあげなさい。一番頑張ったのよ。ね」
「そうだよお父さん。ほら、豆腐ならいっぱい残ってるよ」
「誰も食べないんだもんなぁ。野菜もごっそり残ってるぞ」
お祝いで今夜はすき焼き。
母さんが張り切りすぎていっぱい作ってしまい、三人じゃちょっと多かった。
食卓に一人、足りない。龍之介は帰ってきたら部屋に居て、鍵をかけたまま出てこなかった。
開けようとしなかったのでドア越しに合格した事だけは伝えた。
本人が言うには具合が悪かったらしく、返事はあまり元気が無さそうだった。
「もう、だからお肉ばっかり食べちゃダメだってば、太るよお父さん」
こんな時に具合が悪くなるなんて、大丈夫かな。
龍之介・・・顔が見たい。おめでとうって言ってほしい。
「ごちそうさまでしたー。じゃあ、今日はもう寝るね」
「おやすみ、葵。久々にぐっすり眠れるわね」
二階に上がって、龍之介の部屋の前まで来た。
恐る恐るノックしてみたけど返事が無い。
(鍵も開いてないかなぁ・・・)
だめもとでノブを回したら、抵抗が無かった。
部屋の中は真っ暗で、窓の外の明かりがベッドを照らしている。
「龍くん・・・いないの?」
しかし、龍之介はそこに居なかった。具合が悪いのにどうして寝てないんだろう。