「タワー」-1
答えはノーだった。
ただそれだけの事を、上手く消化出来なくて、半年以上が経った。
その期間は短いといえば短かったとも言えたし、長いといえば長かったとも言えた。
正直、どちらでも良い事だった。
問題は、もっと別のところにあるのだから。
*
狂っていたな。
思い返せば、そう思う。
その頃のぼくの頭の中にあったのは自分の偏差値と志望校の偏差値との差、英語の単語、数学の方程式、古典の文法。化学の公式。日本史の年表。
朝から夜まで勉強漬けの毎日は、ぼくの頭の中をある種の考えに凝り固まらせるのに十分な環境だった。
模試の結果に時に異常に落ち込み、時には異常に歓喜した。
先生の話を一字一句逃さずノートに書き込んだ。重要だと思える部分は、いつか読んだ受験の必勝法に習い、カラフルな字で書いて、頭に入るようにした。
ようするに、ぼくは予備校生だったのだ。
努力をした、本当に努力をした。
ただ予備校と家の勉強机との往復を、ほぼ一年続けた。
何でそんな事を遣りきれたのだろうと考えると、前述の通り、狂っていたからだとしか言いようが無い。
勉強以外の存在を忘れ、勉強以外の世界を忘れ。
そんなただ一心不乱に勉強をする姿は、他から見てもさぞかし異常だっただろう。魔が憑いていたとも言えるかもしれないし、ある意味、それは魔がさしていたとも言える。
つい半年近く前の自分の姿がそれだったというのが、ぼくにはいまいちピンと来ない。