「タワー」-7
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志望校に落ちたのは、勿論それなりにぼくの心にダメージを与えた。
ただ、それ以上にダメージを与えたのは、自分がその事について素直に納得してしまった事だった。
ああ、そうか。ぼくの人生にあったのは起伏じゃない。ただの堕落だ。折れ線グラフは落ちる事はあっても、上がる事なんてなかったんだ。
不合格通知を受け取った時に、そう悟ってしまった。
そしてその事に素直に納得してしまった自分がいた。それを簡単に受け止めた自分が、そこに居た。
今は折れ線が落ちているけれど、今度は上がるだろう?
努力をすれば、その分も重ねて良い事があるんだろう?
ぼくの人生は平坦なんかじゃないんだろう?
その返事にイエスを期待した。ぼくなりの希望を描いていた。それが一年間ぼくを支えていた。
でも、返事はノーだった。
志望校に落ちた、それはショックだった。
その事に納得し、それを素直に受け止めてしまった、それもショックだった。
けれど、一番ショックだったのは、自分が世界に拒絶されているような気がした事だった。
お前には希望なんてないよ、起伏も、折れ線の上昇も、お前には与えないよ。
そう世界に直接言われたような気さえした。
その瞬間に、生きている意味がよく分からなくなった。生きる事そのものが殊更につまらなく感じた。生きる、それ自体にうんざりしてしまった。
この先、ぼくは笑う事もあるだろう。泣く事だってあるだろう。喚く事だってあるだろうし、怒る事だってあるだろう。
でも、それだけだ。
ぼくはその時、心の底からその感情に甘んじる事が出来ないだろう。拒絶されている限り、そう思った。
その時に、彼が生まれた。自分の中の遠く離れた部分に、もう一つの思考が生まれた。
それは勿論多重人格なんかではない。
ただ、一つの事を思考する裏で、やけに退廃的な思考を同時にするようになった、それだけだ。
けれど、彼はぼくのそれからの日常生活に付き纏った。
今まで好きだったモノが、途端に色がくすんで見えた。
今まで笑えていたものが、笑えなくなった。
彼の影響は大きかった。
なにもかもが嫌になった。全てを放り投げたかった。
だからぼくは東京タワーに足を運んだ。
全てを放り出す為に、この電波塔に上った。