通夜の帰り、妹とラブホテルへ-1
「お兄ちゃん、入っていい?」
呼びかける声がし、私の返事を待たずに、妹が風呂の扉を開けて入ってきた。バスタオルを胸にまいただけの全裸姿だった。
「…おっ、おい」
慌てる私にかまわず、「ね、一緒に入ろ。…洗ったげる」と言うと、シャワーを取って私の後ろから背中に熱い湯をかけ始めた。
私たち兄妹は、ラブホテルの中にいた。
それぞれ家庭を持ち、お互いに郷里を離れて暮らしていた私たちが会うのは3年振りであった。
私たちの実家はもう取り壊されて跡形も無いが、近くに住んでいた叔母が亡くなり、その通夜に参列したのだ。
隣に座った妹がそっとささやいた。
「お兄ちゃん、今日はどうするの?…帰る?」
「いや、決めていない。どちらでもいいんだ」
さすがに翌日の告別式までいるつもりはないが、急いで帰らなくてはならない理由も無かった私はあいまいに答えた。
「ふ〜ん、そうなの…」
妹は何かを考えるような風情でつぶやいた。
葬儀は滞りなく終わり、叔母の家族に挨拶を終えて帰ろうしているところに、妹が追いついてきた。
「お兄ちゃん、私、車なの。近くのホテルまで送ってあげる」
妹は私の腕を取りながら言った。私はその言葉で一泊してから帰ることに決めた。
「そうか、それはありがたいな」
車に乗ってから私は妹に訊いた。
「で、お前はどうするんだ?…お前だってこれから帰るのは大変じゃないのか?」。
「うん、私も今日は泊まることにしたの。実は同じホテルを予約してあるんだ、へへ…」
妹はあっさりと軽い口調で言った。
なぜか私の心臓の鼓動は高まった。それを押し隠し、ちゃかすように言う。
「おいおい、まさか兄妹が同じ部屋ってことはないだろうな?」。
「あはは、まさかぁ!」
妹は言下に否定した。しかし、それは嘘であることがすぐに判明した。
しばらく走り、『空室有り』のネオン看板のかかったラブホテルを見つけると、妹は迷う様子もなく車をそこに滑り込ませた。
「お、おい、こっ…ここはマズイんじゃないか」
うろたえる私に妹は答えた。
「いいの、今ごろはどこのホテルも満室よ。こういうところしか泊れないわ」
そして半ば強引に私の腕を引っ張って車から降ろした。
そういう事情で、私たち兄妹はその夜を密室で過ごすことになったのだ。