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『うちとあんた』
【エッセイ/詩 恋愛小説】

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『うちとあんた』-1

うちはあんたが好きやった。
好きやけど恥ずかしいからうまくしゃべられへんかった。
あんたは明日野球の試合やって
そう言うたから、
“頑張ってや”
もっといっぱい言いたかったけど。
それしか口から出てこんくて。


あんたはいきなり野球をやめた。
うちは野球は何がおもしろいかわからんし、
ただ大阪住んでるから阪神応援しとっただけやったけど。
せっかく勉強してわかるようになってきたのに。
いっぱい聞きたいことあったけど、
あんたはうちに
“俺絵描いてみるわ”
そう言うたから、
“頑張ってや”
あんたの目を見たら、
それしか言えんかった。


それからあんたはいきなり入院した。
うちはわけがわからんかった。
あんたも、わけわからんて言うた。
うちはそんなことないやろ思ったけど、
壁にかかったあんたの空の絵を見て。
もっぺんあんたとキャッチボールしたいなぁ思ったから。
“頑張ってや”
それしか言わんかった。
あんたは何も言わんかった。


それから、それから。
あんたはもうすぐおらんくなる。
今、あんたはそう言うた。
うちは聞いてないフリをした。聞きたくなかった。
“頑張ってや…”
そう言うしかできんかった。
そしたらあんた、
“なぁ、そんなに頑張らなあかんか…
俺今まで頑張りすぎたんやわ。
もう頑張られへん…”


あぁ。
うちは何をしとったんや。


もっといっぱい聞けばよかった。
もっといっぱい言えばよかった。


もっと頼ってって。
もっと泣いてよって。
男やから泣いたらアカンなんてことないのに。
我慢させたのはこんな言葉でなく
うち。


なぁ。
もっと好きって言いたい。
いっぱい抱きしめられたかった。
あんたの甲子園でヒット打つ姿見てはしゃぎたかった。
泣きたい日はそばにいたかった。
とくにあんたが辛い日は
ぎゅってしてあげたかった。
そんでな。
もっぺんあんたとキャッチボールがしたかった。


はぁ。
ため息でる。涙も出る。
こんなにいっぱい思い出できたのに
あんたは
うちだけを残していってしまう。


“もう頑張らんでえぇ”
うちはそう言うた。
おらんくなってほしくないけど。
この言葉があんたをおいつめたなら。


うちはあんたのおでこをなでた。
あんたは今まででいちばんの笑顔やった。


うちはもう笑えんかった。


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