今日のデキゴト-1
今日も俺は学校という名の戦場へ行く。
歩いて十五分、走れば八分もかからない距離だが、家庭科のエプロンに調理器具を背負ったこの装備で間にあうか? せめてもの救いはリコーダーが無いことだ。
俺が遅れたら仲間はどうなる? ……きっと今日の昼飯にすらありつけない。
バカ共のおまんまのために走るなんて、俺はあいつらのママじゃないっての。
教室に入り、周りを見る。いまさら宿題をしている者(これが戦場ならどうなると思っているんだ?)や、昨日のテレビの情報(情報収集は戦略の基礎、その点は俺もぬかりなく、ポケモンのブラックの攻略情報は入手済)を交換するグループがいる。
だが、俺は仲間とも距離をとり、席につく。
もうすでに始まっているのさ。
なにがって?
朝会がだよ。
やがて予鈴がなる。
奴が来る頃だ。
索敵担当の田中が廊下を見る。
すると急に手をばたつかせる。
来たときの合図だ。
全員席に着け、一秒が命取りになりかねない!
担任の日下部先生がやってきた。息を殺す、下手に動けば日直にされてしまう。
――カタッ。
(バカが)
たえられなくなった日野が動いてしまったのだ。
案の定、奴は今日の日直に指名され、宿題を集めるように指令を受ける。
そういやさっきのヤロウ、間に合わなかったようだな。おそらく懲罰房行きだろう。お気の毒に……。だが明日はわが身、同情している暇は無い。
一時間目は国語、俺は教科書を音読する。一瞬たりとも気が抜けない。
「佐藤君」
俺の名前……嫌な汗が首筋を走る。任務失敗か?
「そこまで、次は佐々木さん」
ふー、あせったぜ……。だが、俺は未だに生き残った実感が無い。
二時間目は理科、トンボの生態について学ぶ。
どうやらトンボは水陸両用の高スペックを誇るらしい。
幼虫のとき水中を自在に泳ぎ、成虫になると大空を自由に駆ける。
俺もいつかはそんな……、いや、先のことを話すには長く生き過ぎた。たとえ明日の朝日を拝めなくとも悔いは無い。それが小学生というモノだ。
三、四時間目は家庭科。
スクランブルエッグを作る。高カロリーで高たんぱく、便利ですばやく、味はうまい棒と比べればありがたい程度。
俺は準備してきた装備をおろすと、戦友たちとともに、卵を粉砕した。それこそ玉砕覚悟だ。玉子だけに……な?
給食の時間、ジーザス。神は俺を見捨てたか!? 何で肉じゃがに人参がこんなに入っている? むしろニンジャガじゃないか!
給食当番は何を見ているんだ。奴らの目は節穴か? 俺のだけバランスがおかしい……?
いや、違う。
対立するグループの奴らの陰謀だ。
兵糧攻めか? 渋い手を使うぜ。だが受けてたつさ。屈すれば掃除当番を俺一人でやることになるからな。
午後の授業は無い。掃除をしたら残りは命の洗濯にでも使うつもりだ。
今日も無事に過ごせたことをクソッタレな神様に感謝してやるぜ……。
だが、ここで問題が起こった。俺の小隊(五班)の隊員がホウキで演習を始めやがったんだ。体力が有り余っていやがるのはいいが、今は重要な任務中だぞ? くそ、日下部がこっちを見ている。おい、お前ら、聞いているのか!?
俺としたことが部下をまとめきれなかった。
班長失格だな。また日下部に大目玉を食らったよ。
ま、「明日は明日の風に吹かれていく」ってな……。
俺は棒方のココアシガレットを咥え、家路につく。
歩きながら食うのを咎めてくれるなよ、俺の譲れないスタイルなんだから……。
***
日下部より佐藤君へ、
日記の表現はオーバーにならないようにしましょう。
完