龍之介・弐-1
<2002年5月・・・葵16歳・龍之介15歳>
成績はあまり良くないから心配だったけど、無事に姉さんと同じ高校に入学出来た。
大好きな姉さんと毎朝一緒に学校に行けるなんて、まるで夢みたいだった。
でも、楽しさばかりだったのは最初のうちだけで、部活を始めたらすぐに忙しさに追われる様になってしまった。
腹ペコで帰ってきて、味わうより量を優先して夕飯を掻き込んだら、風呂に入って後は寝る。
中学から部活はやってたから体が慣れてると思ってたのに、疲れが溜まるばかりだ。
「龍之介、ご飯いいの?全然食べてないじゃない
「ごめん母さん。今日はいい・・・ちゃんと風呂は入るから」
その日は初めての朝練で、放課後もきっちり練習の挟み撃ちコースだった。
我ながらよく自転車で家まで漕いでこれたと思う。
なんだか、視線がどこか浮ついているみたいだ。見たい方向に固定してもすぐずれていく。
「はあ・・・・・・」
風呂から上がったらもう8時になっていた。
俺は、鉛の様に重い足を引き摺りながら必死で階段を上がり、自分の部屋に入る。
「えっ?!あ、ごめん、間違えた!」
驚いてドアを確認したら、サッカーボールのストラップがぶら下がっていた。
・・・間違いない、ここは俺の部屋だ。でも、ベッドに座ってたのは姉さん・・・
試しにノックしてみたら、間延びした可愛い返事が返ってきた。
やっぱりこの中にいる。どうなってるんだ、なんで俺の部屋に?
恐る恐るドアを開けると、ベッドに座った姉さんが笑っていた。
「ここ龍くんの部屋だよ。間違ってないから」
くすくす笑いながら読んでいる漫画を置き、手招きしてきた。
背中まで伸ばした黒髪が濡れている。
多分俺よりも先に風呂に入ったんだろう。
・・・そういえば、今日は帰ってからまだ顔を見てなかったっけ。
「そ、そうだよね。なら良かった。入るよ・・・」
必要以上にドアを強く開けてしまい、姉さんにもっと笑われてしまった。
ぎこちない動きになってるのが自分でも分かる。くそっ、なんか恥ずかしいな。
別に、姉さんが俺の部屋に遊びに来るなんて今日が初めてなわけじゃあない。
小さい頃はいつも夜遅くまで遊んでいてなかなか寝ようとせず、母さんや親父を怒らせてばかりだった。
俺は、友達と遊ぶのも好きだったけれど、姉さんとの時間はもっと好きだった。
子供ながらに姉さんと一緒に遊ぶというのは、他の誰と遊んでも味わえない、特別な行為だと思っていた。