龍之介・弐-7
「やっぱり泣いてんじゃん。玉葱しみるんでしょ」
「姉さんが任せたんだろ!」
「やってくれるって言ったでしょ。だから、全部龍くんがやってね」
「駄目、いまの無し。一番楽な人参やりたい、皮剥いて切るだけだから」
張り詰めていたものが弾けた様な気がした。
自然に姉さんと話しているのが信じられないが、すぐに馴染むだろう。
何とか材料を切り終えて、鍋に水と一緒に入れた。
「さあ、あとは煮るだけ」
「何にするの?カレー?」
沸騰したところで姉さんが牛乳を注ぎ始めた。そうか、シチューにするんだな。
少しだけ入れるのかと思ったが、鍋全体が真っ白になっても注ぎ続けている。
「ちょっと入れすぎじゃないかな・・・」
「そう?」
更に砂糖を大さじで何杯も入れている。どんな味になるのか想像しやすいな・・・
それから30分近く煮込んで完成した。匂いは、普通だ。
「いただきまーす。ん・・・んぐ・・・」
「もしかしてまずい?」
「・・・・・・甘い・・・」
「うそー。そんな甘くないよ。龍くん大袈裟だって」
同じ物を食べたのにこの感想の違い。
姉さん、料理はするんだけどなんか途中で変な事しちゃうんだよな。
胡椒を同じくらい入れたらようやく中和出来たので、取り敢えず夕食は無事に終わった。
時計を見たら6時を過ぎている。
これから親父達が帰ってくる迄長いな、何をして過ごそう。
「ねえ、龍くん」
「何?」
「一緒にはいろっか、お風呂」
「げっほぉっ!!」
危うく飲んでいた麦茶を姉さんに吹き掛けるところだった。
な、な、何言ってんの?!ふざけてるの姉さん。
「いつ以来だっけ。龍くんが6年生に上がる時に止めちゃったから、4〜5年ぶりくらいかな」
「おっ俺が先に入るよ。姉さんは後でいい?」
「なんで、一緒に入ろうよ。母さんも父さんもいないんだしさ」
顔を見たら正気に見える。
でも、言ってる事が明らかにおかしかった。
「嘘。もうお互い高校生よ?入ったらおかしいもん」
「当たり前だろ!変な事言うなよ、けほっこほっ、ああ苦しい」
「龍くんは冗談が通じないのね。いつもすぐ本気にするから」
「もういい、俺が先に入る!」
いつまでも姉さんの冗談に付き合ってられない。
制服を脱いで丸まったまま篭に押し込み、浴槽に飛び込んだ。
(これから明日、明後日、姉さんが誘惑してくるのかな・・・)
どうせ冗談なのは分かってる。
でも、そうであって欲しいとも願っていた。
俺が高校生になってから姉さんは時折変な行動を取る様になったんじゃないかな。
まだ、たかが1ヶ月そこそこでそう結論づけるのは早いけど、そんな気がする。
こないだみたいにやたら体に触ろうとしたり・・・・・・