龍之介・弐-5
「夢だったのか・・・?」
信じられなかったが自分で口に出してみたら、そうだったのかなと思えてくる。
昨夜どう感じていようがその証拠はどこにも残っていないんだから。
「龍くん、おはよ」
「ねっ、姉さん?!今朝は早いんだね」
部屋を出たらちょうど姉さんと鉢合わせになってしまった。
ブラウスの上に紺色のベストを着て、緑のチェックのスカート。そして、ベストとお揃いの色のハイソックス。
・・・こうして見ると、普通の高校生だ。
「いつもと同じだよ。それより龍くん、着替えないでいいの。出るまであと30分も無いでしょ」
「あぁ、うっうん・・・」
いけない、着替えるの忘れてた。
朝食べてからだと間に合わないからいつも先に着替えてるんだったっけ。
中学からの習慣だったのにそれを忘れるなんて。
(違うよな。昨日のあれは姉さんの仕業じゃない。きっと寝呆けてたんだろう)
余計な事を考えてる暇は無い。早く着替えなきゃ遅刻する。
朝練が無くても忙しいのはかわらないな、とため息が出た。
「龍之介、もう食べないの。昨日食べてないでしょ」
「う、うん・・・そんな時もあるんだ」
「大丈夫?具合悪いんじゃない。薬飲んで行きなさい」
「心配無いって。じゃあ、行って来る!」
これ以上いたら追及されると思い、家を飛び出してしまった。
自転車に乗り込むと同時にペダルを漕いで、学校へ急いだ。
(・・・姉さん・・・)
何だかもやもやする。
これじゃまるで姉さんから逃げてるみたいだ。
昨日の出来事は夢だ、そう思いたかった。
意識がはっきりしていなかったのは、今の俺にとって幸いだったんだろうか。
頭の中に笑顔の姉さんが焼き付いて離れない。
俺の一つ上だし、そういう知識があるのは当たり前だ。でも、実際にやったと思うと・・・
結局その日は一日中そればかり考えていて授業も部活も身が入らず、罰として居残り練習をさせられてしまった。
・・・そして数日後、事件は起きたんだ。