龍之介・弐-3
「握力も強くなったね。サッカー部なのに不思議」
姉さんの手首が微かに赤くなっている。強く握ったつもりは無いのに、無意識に力が入ったのかもしれない。
昔は力もまだ同じくらいだったけど、中学に入ってから俺が追い越してしまった。
「・・・・・・」
急に忘れかけていた眠気が目を覚まし、目蓋が重くなる。
なんだか、今日はあまりもう頭が回りそうに無い。
朝練さえ無ければ幾らか体力が残ってて、ちゃんと何を話そうか考えられた。
「あ、今日は朝もあったんだよね。疲れてるのにごめん」
「いやっ大丈夫。せっかくだしもうちょっと・・・」
母さんや親父には疲れを見せられる。でも、姉さんには見せたくなかった。
転んで膝を擦り剥いても、姉さんの前では絶対に涙を流さなかった。
弱いところを見せたくないというのもあったけれど、何より姉さんを見てると安心するというのもあった。
友達は皆可愛いと言う、俺の自慢の家族・・・
「無理は良くないよ。明日も部活あるんでしょ。一緒に寝てあげる」
「い、一緒に?!それはいいって。やめてよ」
慌てる俺を見て姉さんは口元に手を当てて笑いだす。
「するわけ無いでしょ。もうちょっと漫画読んだら部屋に戻るから」
「だっていきなり体見せろとか言ったし。本当に戻るの?」
「うん、9時前くらいには戻るから」
・・・だったら、安心だ。
そもそもいくらなんでも姉さんが実の弟に悪戯なんてするはずない。
やっぱり、意識しすぎだ。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
ベッドに横になり、枕に頭を預けたらすぐに睡魔が襲ってきた。
次に起きる時は目覚ましが鳴ってるんだろうな、と崩れる意識の中で思った。
(・・・ん・・・んん・・・・・・?)
体に何やら違和感を感じて目が覚めた。一体、どれくらい眠ってたのか分からない。
起きたとはいえ、目蓋が張りつきそうなくらいに重く、うまく開かなかった。
(なん、か・・・変だ、これって・・・?!)
殆ど頭は機能していなかったが、この感覚がなんであるのか答えを捻り出していた。
所謂・・・¨慰めている¨時の快感だったのだ。
俺くらいの年齢の男なら誰だってしている行為だ。
最初は寝ながら自分がしてるのかと思ってしまった。
そして、今でもそう思い込もうとしている。
今の状態で、自らそんな行為が出来るわけがない。もしそうなら重度の夢遊病だろう。
誰か別の人間がやってると考えた方が自然だ・・・