龍之介・壱-5
「龍くん、早くしてよぉ」
「あ、悪い。つい懐かしくて部屋の中見てた」
「目の前にお姉ちゃんがいるのに、部屋の方が気になるの。龍くんって泥棒に転職した?」
こんなどうしようもない冗談が無性に寂しく感じてしまう。
でも、姉さんが元気そうで良かった。電話じゃ俺と同じくらい生気の無い声だったから心配してた。
「んっ・・・」
ピンを外し、姉さんの上げて留めてあった前髪を下ろす。
まるで子供を愛でるみたいに頬を優しく撫で、肩に触れた。
・・・もうキスはしているのに、姉さんを犯してしまいたいという欲求は湧いてこない。
でも、その行為をしたくないと言っては嘘吐きになってしまう。寧ろしたいくらいだった。
「姉さん・・・」
包み込む様に姉さんを抱きしめ、額をくっつける。
俺を見つめる瞳がじわじわ潤み始めて、微かに開いた赤い唇から熱い吐息が漏れていた。
「龍くん、今日はなんだか優しいね。いつもみたいに押し倒さないの?」
「そういう事言うとやるぞ」
口ではそう言ったが、何故か乱暴しようという気持ちにはならなかった。
これで最後だから、せめて今回は姉さんに手荒な真似はしたくない。
今迄散々してきたからもうしちゃいけないんだ。
(なんて・・・本当は、ただ格好つけたいだけなのかもしれないな)
姉さんにばれない様に心の中で苦笑いをし、そっと手を取り甲にキスした。
すると姉さんが目を丸くし、俺を凝視している。
「ちょ、ちょっと龍くん?!何のつもり?!」
「嫌いじゃないだろ、こういうの」
「悪いけど頭でも打ったの?こんなの、ずっとした事無かったじゃない」
姉さんに言われた通り・・・いや、少しは優しい時もあったと思う。
でも、姉さんの記憶の中の俺は、間違いなくろくな姿じゃないだろう。
それだけの事をしてきたのだから・・・
「葵・・・」
ベッドまで姉さんをお姫様抱っこで連れていき、一緒に座った。
そして、そのままベッドに寝かせて、隣に添い寝した。
「・・・もうするんだ。やっぱり」
唇を尖らせるその表情はがっかりしているみたいだった。
でも、安心して欲しい。今の俺はちゃんと出来そうだから。