龍之介・壱-4
¨ガチャ・・・¨
鍵を外す音と同時に、急に心臓が速くなり始めた。
勢いで来た事を後悔してももう遅い、姉さんはすぐそこにいる。俺に会いに来る・・・
「龍くん・・・」
以前は少しだけ染めていた髪はすっかり黒く戻り、前髪をピンで上げていた。
そして、短くなっていた。お尻くらいまで伸ばしていたのに、うなじにかかる程度しか無い。
「久しぶりだね。ちょっと痩せたかな」
俺の頬に触れる指先も、なんだかざらついて変な感触だった。
もう少し柔らかくてすべすべだった気がしたが、一体どうしたんだろう。
「・・・結婚、おめでとう。葵・・・」
「さっき電話してくれたじゃない」
「直接、言いたくって」
「ありがとう、龍くん」
葵の体がゆっくりと俺に重なってきた。
胸が押しつけられ、肩と首の間に細い腕が巻き付いてくる。
「ん・・・っ」
唇で触れて、いきなり舌を挿入してきた。俺の舌を舐めて、唾液を付着させてから一旦唇を離す。
俺と葵の濃いピンクの唇の間に透明の橋がかかった。
姉さんの方から誘ってくるのは珍しい。
・・・舌は苦くない。酒を飲んでいるわけでは無さそうだ。
「龍くん・・・」
もう一度姉さんが唇を重ねてきたので、今度は俺も自分から舌を絡ませた。
唾液も、熱も、お互いのものを自分の物にしてしまおうとする様な、激しいキスを交わす。
「んっ、んちゅう・・・ちゅっ、ちゅぷ、ちゅっ」
「んん〜〜、んっ、んるぅ、ふあ、あっあっ・・・んん」
姉さんの手を取り、指を絡ませてしっかり握り締めた。
すると、向こうは指を解いてしまい、俺の手の平に爪を立てて擽ってきた。
「い、悪戯すんなよ葵」
「だってしたくなったんだもん。いきなり握るから」
片方の口角を上げて悪戯する子供の様に笑った。
まるで、高校生に戻ったみたいだった。あの頃はよく俺の体を触ろうとしてたな。
まだその時の俺は今みたいになる前で、姉さんが近くにいるだけで無性に心臓が高鳴っていた。
いつからだろう。姉さんの体を求める事に抵抗が無くなってしまったのは−
「龍くん、ここじゃなくて、あっちでしてぇ・・・」
姉さんのお願い通り、玄関から部屋の方に移動して、床に座り込んだ。
抱き合ったまま腰を下ろしたのでお互いの顔がとても近い。
机には、やっぱり酒の缶は見当たらない。
あの冷蔵庫の中は酒が半分占領してたけど、今はどうなってるんだろう。
後は、ゲームの機体とPC、タンスにベッド、テレビくらいしか目立つものは無い。
俺と暮らしてた頃と殆ど変わってないのか・・・