コンビニ草紙 第二十四話-4
「…ごめんなさい。私のせいで、色々辛いこと思い出させてしまって。」
つっかえながら私は小さくつぶやいた。
「良いんすよ。私が勝手に思い出して騒ぎにしちゃっただけですから。
悪いのは、私です。」
そう言うと、彼は袂から手ぬぐいを出し、私に差し出した。
私は手ぬぐいで涙を拭く。
「私も、草士さんが好きです…。例え周りが何を言おうとも、
今私の前にいる草士さんが、大切です。」
心臓が飛び出しそうになりながら、自分の言える精一杯の言葉を彼に言う。
私を見つめる彼の目が揺れる。
そしてゆっくりと微笑み、私の頬に触れた。
彼の手は少し冷たくて、とても気持ちが良い。
「…良かった。やっぱり、りょーこさんは、綺麗です。」
彼はほっとした表情で私を見る。
一番トラウマになっている部分を人に話すというのは
とても辛い事だと思う。
でも、彼はそれを隠さず話してくれた。
私はその事を一緒に背負う事は出来ないけど、
一緒にいる事は出来る。
これからも、ゆっくりで良いから、彼の事を知りたいと思う。
私も微笑んで彼の手の上に自分の手をのせる。
すると彼の顔が近づいてきた。
私は目を閉じる。
今度は勘違いじゃなく、唇に彼の冷たい唇が触れた。
きっと数秒間の出来事であったのだと思う。
でもその時間が私にはとても長く感じられた。
ゆっくりと唇から彼が離れていく。
目を開くと、とても穏やかに草士さんは微笑んでいた。
そして、私の頬に置いていた手を、私の手に重ね直して、立ち上がる。
私達は、手を繋いで広場から出た。
無言のまま商店街の方に歩いていく。
だけど、さっき無言だった時と違い、何も話さなくても心は温かかった。
商店街に戻ると、神社まで歩く。
人が多いので、はぐれないように少し強く手を握られる。
神社の入り口まで行くと、長次郎さんと洋七さんの姿が見えた。
私と草士さんを見て手を振っている。
手を握ったまま草士さんが長次郎さんと洋七さんの方に歩き出す。
「おぉ。リョウコさん、草士と会えて良かった。お参りはもう済んだのかな。」
長次郎さんと洋七さんは長テーブルの後ろに座っているので、
私達の手元は見えないようだ。
私は泣いた後で目が腫れていないかが心配で、
草士さんに半分隠れるような形で長次郎さんと洋七さんを見た。
「いえ、これから行くところです。」
「そうかい、そうかい。もうすぐ御輿が戻ってくるからね。早く行ってきなさい。」
長次郎さんがテーブルの上に置いてある順路表のようなものを見ながら言う。
草士さんが、じゃあ行って来ます。と頭を下げると、
二人ともにこにこしながら頷いた。