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コンビニ草紙
【理想の恋愛 恋愛小説】

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コンビニ草紙 第二十四話-3

「父はある資産家でして。母が出会った頃にはもうちゃんとした奥さんが
いたそうです。なので、母は私を一人で生んだんですよ。」

草士さんはそこまで言うと大きく息を吐いた。

「…それで、母はもともと身体が弱かったので私が小さい時に
死んでしまったんすけど、親戚や心無い人から
色々母の悪口を昔は聞いたりしてまして。」

草士さんは淡々と、何も感じないような口調で話す。
お前は妾の子、お前は売女の子、お前の母さんは悪い女。
そんな言葉を小さい頃に言われた事が何度かあるらしい。

メカケノコ、バイタノコ。カアサンハワルイオンナ―。

私の頭の中でその言葉がぐるぐると回る。
そんな事を子供に言うなんて、考えただけで胸が痛い。
私は何も言えないまま、ただ黙っているしかなかった。

「さっき、蒔田さんに、りょーこさんの事をそんな風に言われたんす。
リョウコは俺と婚約しておきながら他の男と浮気をしていた、悪い女だって。」

心臓が大きな音を立てる。
浮気をしたのは、ヒロタカだ。
なんで今更そんな事を言うのだろう。
最低な男だとは思っていたが、ここまで最低だとは思っていなかった。
私はぐっと唇を噛んだ。

「それで、何だか私の母の悪口も言われているような気になって
怒っちゃいまして。ちょっと脅かしたら蒔田さん腰抜かしちゃったんすよ…。」

そこまで言い終わると彼はため息を小さくついた。
私は何を言って良いのかわからずにただ無言で彼の横に座っていた。
すると突然彼が体を私のほうに向けて座り直した。
じっと私の方を見つめている。
大きな目に見つめられて、私は何も言えないまま、固まってしまう。

「…私は、りょーこさんが好きです。悪い女だとも、思っていません。
今日は私のせいで本当に色々すんませんでした。
でも、私はりょーこさんがどんな人でも、大切だと思ってます。」

彼は私から目を離さない。
言い終わった後、少しだけ目の奥が優しくなる。
その瞬間、私の頬に涙がつたった。

今まで、どこかで自分に魅力がないから浮気をされたとか、
自分が女らしくないから恋愛が上手くいかないとか、
悪いことは全部自分のせいにしてきた。
それを今違うと許されたような気がした。
本当は強くなんてなくて、
寂しいことの方が
辛いことの方が沢山あって、
でももう大人だから、そんな簡単には泣けないし頼れない。
いつしかそう思って自分を守る殻をどんどん堅くしていた。
それが今一気に剥がされた気がして涙が止まらない。

草士さんは泣いている私をゆっくり両手で包み込んだ。
抱きしめるというより、優しく包んでもらっているようだ。
袖から微かな樟脳とお香の匂いがしてゆっくりと心が落ち着いてくる。
背中を子供をあやすようにぽんぽんとゆっくりたたかれると、次第に
涙も止まり、落ち着いてくる。
私はしばらく隠すように彼の胸の中に顔をうずめていた。


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