立花さんの幸せ-1
いったい何が幸せかなんて、その人にしか分からない。
好きな人と一緒にいる
太るのも気にせず好きなものを食べる
今している仕事に精一杯情熱を燃やす
自分の夢の為にがむしゃらに突っ走る
誰かに決めてもらうものじゃない。自分で感じて決めるもの、それが幸せ。
私はそう思う。
「・・・まだ9時か・・・」
一旦目が覚めて、時計を見たら午前中。
結構寝た感じがするのにまだ時間が早いと得した気分になる。
昨日までは身を粉にして働き詰めだった。
この至福の時間の為に、普段はわざわざ睡眠時間を減らしているのだ。
休みの前夜から始まる私の幸せ。他に何も変えられない、睡眠という幸福−
しかし最近それを平気で邪魔する馬鹿者がいる。
「・・・!!」
携帯が鳴って、私の胸にじわじわ不快感が広がっていく。
栞菜、かな。そうであってほしい。あの子は邪魔者なんかじゃないから。
『立花さん、おはようございます!』
・・・現実は甘くない。よりにもよって馬鹿者の方か。
仕事の連絡は休日でも関係なく入るので、マネージャーは携帯を切るという事は無い。チーフともなれば尚更・・・
「死ねば?」
『あの、ちょっと相談したいんだけどいいっすか』
「いますぐ死ねば?」
『栞菜がね、俺が使ってる携帯がカッコ悪いって言うんですよ。立花さん、カッコいい携帯って知ってます?』
「知らない」
一方的に切ってもすぐ掛け直してくる。
最初のうちはいちいちなんですぐ切るんですかと反応してきたけど、最近はスルーして話を続ける様になったから始末が悪い。
『ほら、立花さんてできる人じゃないっすか。カッコいい携帯持ってるでしょ』
「知らないっての」
こういう風に。こいつは、へこたれるっていうのを知らないんじゃないかな。
ストレスなんて知らないのかも。羨ましい体質だわ。まあ、出る私も私だけど。
『立花さんの身体の一部みたいじゃないっすか。無駄なストラップとか付いてなくて、洗練されたスタイリッシュな感じっす』
「あんたがセンス悪いのよ。大体何で携帯に鍵付けてんの」
『俺にとって携帯は大事なんです。車の鍵もそうですよ、だから一緒にしてるっす』
大切なもの、ね。
私にはまるで理解できないけど、日比野にとっては譲れないものなんだ。
それが自分の経験を経て考えだしたものなのか、はたまた単なるカッコつけなのかは分からない。
手より口が先に出るこいつのことだから、恐らく後者だろうね。