立花さんの幸せ-2
「じゃあさー、携帯も車らしくしてみたら」
『は?なんすか?それ。車のパーツらしいってことっすか?』
「知らない。探せばあるんじゃない。無いなら作ればいいし」
『ちゃんと教えて下さいよ立花さん。そんないい加減な人じゃないでしょう?』
「うっさいなー、寝かせろ。あと五秒話させたら、明日覚悟しとけよ」
『お願いします。俺、バカで考えるの苦手なんです。友達や同僚に相談したけど、立花さんだけが頼りです!』
急に甘えるトーンに変わった。
他の子に聞いたけどこいつは末っ子で、いつも誰かに頼ってばかりだったらしい。
・・・くっ、いけない、つい世話を焼きたくなる・・・!
まだ幾らか若い頃の弟に似てるのよね。
こいつ程甘えたがりじゃないけど、用事を頼まれる事が多くて、つい引き受けてしまっていた。
「自分で考えろ!」
日比野なんかに幸せを邪魔されてたまるか。
もう大人だ、携帯すら自分で選べないなんて馬鹿だな。うん、馬鹿だ。
大体、なんで休みの私に電話してくんの。
仕事以外じゃ私に電話したくない、なんて陰口叩いてる子もいそうなのに。
「まったく、するならせめて仕事の電話してこいっつうの。アホ、アホっ!馬鹿!」
携帯を枕元に置いてから、無意識にすぐ取れる位置に置く様にしてると気付く。
待ってるわけでも無いのに・・・あいつは邪魔者よ?
しかも担当してるアイドルと付き合うとか、本当に人生を謳歌してやがるわ、あの出っ歯。
でも、私はそういう感情は抱かない様にしている。
どうせ報われないんだから、仕事と割り切るべきなのよ。
今に辛い目に遭うかもしれないわよ、日比野。あんたはある程度経験してるからいいけど、栞菜が・・・
「ひゃっ?!」
まっまた電話?!なんなのよもうっ、日比野!
と思ったら違う。栞菜からみたい。
「もしもし?」
『あ、立花さん。お休みなのにごめんなさい』
「いいよ、なんかあった?」
『あの・・・実は、ちょっと相談したい事があって』
あまり声が明るくない。
日比野みたいな下らない話じゃ無さそうね。
よしっ、私でよければ力になるわよ。
『卵焼きがうまく作れないのー!』
持っていた携帯を落としそうになった。
あんたも日比野と同レベルかぁ?!そんなもん、私に言うなっつうの!
こんな子じゃ無かったのよ、いつも仕事で悩んでばかりだったの、それが卵焼きとか・・・
「卵焼きがねぇ」
『日比野さん、ふわふわな卵焼きが好きなんだって。でも、何回やってもべちゃってしちゃうんだ。どうしたらいいのかな』
「・・・ごめん、わかんない。本当に」
『そ、そう、ごめん。立花さんに言うことじゃないよね。まずいって言われてショックだったの』
・・・あん?まずいだって?
あの野郎〜〜〜!!
「大丈夫、栞菜ならうまく出来る。とりあえず料理本見てやってみなよ」
『うん、ありがとう立花さん。じゃあ、またね』
栞菜が通話を切った後即座に日比野に掛けて、思い付く限りの罵詈雑言をぶちまけた。